第24話

けほっけほっ

「おい唯、お前は来なくていいって言っただろ。家で寝てろ」

「けほっ。だ、大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」


こいつの名前は神野 唯。

黒巫女である。

そして、剣の腕もよく、妖魔を何体も封じている。

しかし唯は、体が生まれつき弱い。

だから、妖魔封じは他の黒巫女に任せればいいと、俺はいつも言っている。

現場を預かる責任者として。

だが、いかんせん唯の奴は真面目すぎる。

他の黒巫女の先輩たちに迷惑はかけられないと。

その心意気はいいとしても、唯よ、ほかの黒巫女たちはお前に気を使っているんだぞ。

唯よ、お前はなぜそんなにも、空気が読めないんだ。

俺はいつもこう思う。

しかし、こいつは先ほど言った通り、剣の腕がよすぎる。

以前Aクラスの妖魔が出たとき、唯抜きで封じようとしたことがある。

しかしこれがまたAクラスどころか、AAクラスかと思ってしまうほどの強さだった。

応援に来た黒巫女を含めて、5人でもてこずっていた。

それが、後から遅れてきた唯が・・・


「けほっけほっ、おくれてすみません。この妖魔ですね、任せてください」


そう言うと唯は、ゆっくりと妖魔に近づき、抜刀術の構えをとった。

それに気が付いた妖魔は、唯を攻撃するどころか後ろに飛びのいた。

妖魔は俺たちにはわからない唯の殺気を感じたのだろう。

それからしばらくの間、唯と妖魔はにらみ合っていた。

最初に動いたのは妖魔のほうだった。

妖魔はじりじりと唯との間合いを詰めていった。

妖魔は自分の合間に入ると、先に刃のようなものがついた触手を振りかぶり唯を切ろうとした。

唯はその攻撃をわずかな動きでよけると、妖魔に向かって走った。

唯は妖魔の弱点の間合いに入ると、その弱点を攻撃したそうだ。

そうだ、というのは、あっという間のできごとで、俺には何が起きたのかわからなかったのだ。

だから俺は、黒巫女たちに聞いてみた。

しかし、黒巫女たちもなんとか唯と妖魔の動きが見えた程度だった。


「けほっけほっ。あとはお願いしてもよろしいでしょうか?」

「う、うんいいよ。ごくろうさま。体には気を付けてね」

「はい、けほっ、ありがとうございます。それではお先に失礼します。けほっけほっ」


は、はやっ。

もう、封印したというのか。

やはりこいつは、腕のいい黒巫女だ。

頼りになるぜ。

体が丈夫なら、完璧なんだけどな。



その夜、小夜と村正は妖魔と戦っていた。

小夜よ、早く倒さないと、たぶん地震がくるぞ。


「ほんとに?」


ほんとうだ、俺を信じろ。

小夜が何故、地震が来るから妖魔を倒そうとしているかというと、妖魔が地震に干渉して地震などの自然災害の被害を大きくするからである。

小夜も村正も、自分に関係しなければ、こんなことはしない。

しかし、自分がいるところで大地震なんかきたらめんどくさいと、妖魔を退治しようとしているのだ。

小夜!はやく殺らんか!


「はあ~わかった」


後ろを向いていた小夜に、妖魔は攻撃を仕掛けた。

妖魔の攻撃は、小夜の後頭部めがけて飛んできた。

小夜はその攻撃を、小首をかしげるように避けた。

そして小夜は、めんどくさそうに妖魔の方に向くと、妖魔を睨みつけた。

妖魔はやばいと感じたのだろう。

小夜の目を見た瞬間、体が凍り付いたように感じた。

妖魔はそう感じたのを最後に、意識は暗闇に落ちていった。


「これでいい?」


ああ、あとは黒巫女たちに任せ解けばいいだろう。

そして、小夜と村正はその場から消えた。

小夜と村正が消えてから数分すると、黒巫女たちが妖魔を刀に封じに来た。

小夜が倒した妖魔も、死んだわけではない。

最後は刀に封印しなければならない。


「ほんとにいた、妖魔」

「うん」


妖魔は黒巫女たちの目の前に、横たわっていた。


「ねえ、この妖魔、最低でもAAクラスあるよね」

「う、うん」

「これを、一人で倒したっていうの?信じられない」

「う、うんって、なにやってんの。早く封印しなきゃ」

「あ、そうね。そうだったわね」


見たことのないような妖魔を目にして黒巫女たちは驚きを隠せないながらも、封印をしようとした。

そのとき、いきなり黒巫女たちの体が縦にぐらぐらと揺れた。

その揺れは、10秒ほどだったが、黒巫女たちにはどういうことかわかった。

この地震は、小夜が妖魔を倒してなければ、もっと大きな地震だったろうと。

そんな小夜を黒巫女たちは、悪魔と呼ばれていることが信じられなかった。

一方小夜は、


「はあ~、ただ働きただ働き。もういや」


そう言うな。

地震が小さく治まって、よかったではないか。


「ん~、まあ、そうだけど」





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