第23話

ここは、妖魔退治に名を遺す黒巫女を輩出した、名門と呼ばれた家。


「おい、妖魔が出たそうだ。いくぞ」

「・・・・」


部屋の外から声をかけたが返事がない。

ま、まさかあいつ、また飲んだな。


「入るぞ」


やっぱり。

そこには、一升瓶を抱えて寝ている黒巫女がいた。


「おい起きろ!はやくいくぞ!」

「う~ん。うっさいなぁ」


わが娘ながら恥ずかしい。

この黒巫女は、神野 八重。

全然名前に似合っていない黒巫女だ。

八重の父は一郎。

一郎は、八重の寝姿を見て、だんだんと腹が煮えくり返ってきた。


「早く起きろって言ってんだよ!」

ぼふっ!

「うげっ!」


一郎はこのなかなか起きようとしない黒巫女に、蹴りを一発入れた。


「なにすんの!暴力おやじ!」

「うるさいわい。未成年のくせに酒を飲む、お前が悪い。早く着替えろ。いくぞ」

「あ~あ、めんどくさ」


いちおう名門の神野家の二人は、こうして現場に向かった。

現場に着くと一郎は、責任者に謝る。


「すまん。おくれた」

「いえ」

「それで、どんな妖魔だ」

「Aクラスの、それも人型です」

「人型か。少しやっかいだな」


人型の妖魔がやっかいというのは、植物系、動物系の妖魔と違って、多少なりとも知恵が回るからだ。

一郎たちが話をしていると、それを聞いていた八重が口をはさんだ。


「人型ですか」

「あ、八重さん。そうなんです。どうしますか」

「問題ありませんわ。それでは、行ってまいります」

「はい、おねがいします」


こいつは、ほんとに外面だけはよすぎるくらいだな。

そして、八重が酒を飲んでいたことは、神野の秘薬で匂いは全くしないのでばれなかった。


「それでは行きましょうか」

「はい、おねえさま」


他の黒巫女たちは、八重の真の姿を知らずに、おねえさまと八重を呼んでいた。

それを見て、一郎はいつも心の中で、黒巫女たちに謝る。

ごめんな、八重はお姉さまなんて呼ばれるに値しないやつなんだよ。

こんな八重だが、妖魔退治は優秀で、10分を過ぎたころ帰ってきた。


「終わりましたわ」

「もう退治したというのですか。人型の妖魔を」

「まあ、人型といってもいろいろいるということですわ」

「え、いや、でも、Aクラスの魔物だったのに・・・」


現場の責任者は、信じられないという顔をして八重を見つめていた。


「それでは、あとはお任せいたしますわ」

「は、はい。ごくろうさまでした」


そして、八重と一郎は帰途に就く。


「なにあのおっさん。あたしのこと、じ~っと見て。気持ち悪い。お酒飲んでおっさんのことなんか忘れよ。うん、それがいい」

「まだ飲む気か!未成年が!アル中になんぞ!」


アル中黒巫女が妖魔を退治したころ、小夜は黒巫女の刀狩をしていた。


「あれ、あたしとやる気なの?どうせ負けるよ」

「たぶんね。でも、手合わせするから他の黒巫女たちには手を出さないで」

「そういうことか。いいよ。あたしは、あんたが持ってる助真(すけざね)が欲しいだけだから。それじゃ、いつでもいいよ」


くそっ、なめやがって。

一矢だけでも報いてやる。

黒巫女は小夜に何度も斬りかかるが、小夜は簡単にそれをかわす。


「う~ん、もういいや。あんたとやっても、おもしろくない」


そう言うと小夜は、黒巫女の腕を切り落とした。


「あ、あれ?」

ぼとっ


黒巫女の足元で音がした。

そこには、腕が転がっていた。

それを見ても黒巫女は、なにが起こったのか理解できなかった。


「だいじょうぶ。すぐに病院に行けば、くっつくから」


それだけ言うと小夜は、闇夜に消えていった。

そして、


「一文字助真か~。踏ん張りがあって、腰反りが高くて、それでもって伏せこころは無しかぁ。地鉄は、板目肌で地沸(じにえ)が細かくついてるなぁ、これ。それに、刃紋に沿って映りもあるし。これは、乱れ映りかな。刃紋は、直刃で重花丁子かぁ。うん、やっぱり助真もいい」

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