第8話
「ねえ美紀、聞いた?」
「ん、なにを」
「これからしばらくは、どんな妖魔に対しても3人以上で対処するって」
「う~ん。なんか、そうみたいだね~まあ、今までの被害を見たら、それでもすくないくらいだよね」
「あれ、自分の前に出てきたら、ズバッじゃないの?」
「そんなことしたら、早紀怒るでしょ」
「そりゃ、まあねえ~」
「だから、そんなことしないもん」
「ふふ、そっか」
美紀は早紀がいる限り、大丈夫なようじゃな。
「なにいまの、ふふっていうのは。ばかにしてんの早紀?」
「えっ、なにそれ、馬鹿になんかするわけないじゃない」
「その顔は嘘ついてる」
「どんな顔よ、それ」
「もうおこった。今日こそやってやる」
勝手に自己完結して、早紀に喧嘩吹っ掛けよった。
コイツはほんとに、しょうがない奴じゃ。
すまんな早紀、こいつの面倒はまかせたぞ。
「なにがやってやるよ、この馬鹿!」
そのころ、村正と小夜はまだ四国にいた。
小夜のたっての希望で。
その希望とは、讃岐うどんが食べたい、というものであった。
「おい小夜よ。何処かに行きたいところでもあるのか?」
「うん。製麺所で、醤油だけぶっかけて食べるところにいくの。おいしいらしいから。たのしみだな~」
気のせいか、小夜の口が滑らかな気がするな。
よっぽど楽しみにしていたようだな。
しかし、ほんとに食べるのが好きなようだな。
「小夜よ、ここでも一つ仕事するか?」
「やるけど、なんで?」
「ああ、実はな山鳥毛と同じような気配を感じてな」
「山鳥毛とおなじ?」
「そうだ」
「やるやる、いますぐにでも」
「では、うどん食って腹がなじんだらやるか」
「わかった」
国宝と同じ気配か。
小夜の奴も、いつにもまして気合が入っているようだな。
小夜は、勢いよくうどんをすすっている。
早く食い終わって、仕事がしたいのか?
それとも、うどんとはこういう食い方をするものなのか?
このへんの、人間がものを食うというのは、おれにはやはり理解できんな。
10杯以上おかわりをすると、小夜は満足げに箸をおいた。
「ごちそうさまでした」
うむ、こいつは、刀を握っていなければ、普通の女子高生だな。
「おい小夜」
「なに」
「いまさらだが、普通の女子高生の生活には未練はないのか?」
「ない。普通の女子高生なんか、わたし知らないし」
「そうか」
だよな。
黒巫女に、普通もなにもないわな。
今は、その黒巫女に追われる立場でもあるがな。
うどんが腹になじんだころ、小夜は妖魔を呼んだ。
結界が張られしばらくすると、3人の黒巫女たちに封印された。
小夜は黒巫女たちの前へ、勢いよく現れた。
「狐・・・あんたが用があるのは、わたしだけね」
こくりと小夜は頷いた。
「よかった。それなら、手出しはさせないから、あんたも他の黒巫女たちには手を出さないで」
「わかった」
「でも、負けるつもりはないから」
黒巫女は、抜刀術のかまえをとる。
小夜も同じく抜刀術のかまえをとる。
二人はじりじりと距離を詰めてゆく。
小夜はまだ完全に間合いに入っていない黒巫女に、刀を抜いた。
この距離なら、避けて抜刀すれば私の勝ち。
黒巫女がそう思ったとき、右側面に鈍痛を感じ吹き飛ばされた。
うそ?
黒巫女はいったい何が起きたのか分からなかった。
だが、吹き飛ばされた先で、小夜が見えたとき謎は解けた。
小夜は左手に、刀が抜かれた空の鞘を持っていた。
「これ、鉄拵え」
小夜は握った鞘を、前に突き出して見せた。
「そ、そうか、鞘で殴られたわけね。痛っ」
「まだやる?」
「あたりまえ」
それから黒巫女は、小夜の攻撃を受け続けた。
カランカラン
黒巫女は、刀を拾おうとするが、手がしびれて思うようには動かない。
「くっ、くそっ。う、うごかない」
「それじゃ、これ貰っていくね。じゃ」
「こ、殺さないのか?」
「えっなんで」
「そっか、私は弱かったということか」
「なにいってんの。強かったよ」
「強い奴は殺すんじゃ」
「うん、中途半端に強くて、威張ってる奴は殺すけどね。それじゃ」
そう言い残して、小夜は消えて行った。
他に誰も傷つけることもなく。
宿に着いた小夜は、山鳥毛の気配を持つ刀を、蝋燭に照らす。
「手入れはきちんとやってたみたいね」
小夜は刀をいろんな角度から眺める。
「大房の丁子乱れが鎬にまで届いてる。ほんとに山鳥毛みたい」
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