第9話
「ねえ早紀。前に早紀が強いって言ってた人が狐のお面にやられたってほんと」
「はあ~信じられないけどそうみたいね。美桜ねえさんが手も足も出せなかったって、ほんとに信じられない。でも、被害はなかった。美桜ねえさんの、怪我以外は」
「それで早紀、その美桜さんとあたし、どっちが強いと思う?」
単純な力だけで言えば、美紀かもしれないけれど、それは言わない方がいいわね。
「そんなの、美桜ねえさんに決まってるじゃない。だから、狐と遭遇しても、戦わない。ちゃんと逃げるのよ」
「何度も言わなくてもわかってる」
早紀が認める強者がやられたのか。
しかし、そんなに強い元黒巫女なら、誰も知らないと言う事は無いはずなんじゃが、なんかこれには裏があるかもしれぬ。
どんな裏かはわからんが。
正体は、神野の秘密の最終兵器かなんかかもしれんな。
とてつもない妖魔が出たときのための。
しかし、そういうことだとしても、何故隠していたか分からん。
美紀と早紀がそんな会話をしていた時、小夜は神戸にいた。
小夜の奴ご機嫌だな。
昨日の黒巫女との戦いが、余程面白かったとみえる。
「小夜よ、なんかご機嫌だな。いいことでもあったのか」
「ご、ごきげんなんかじゃない」
「そうか?」
小夜の奴、ご機嫌だと思われるのが恥ずかしいみたいだな。
こんなところは、普通の女の子か。
「そんなことより、なにかみつかった」
「ああ、おまえがきっと喜ぶであろう一品がな」
「なにがあるの」
「包平だ」
ご機嫌な小夜が、さらにご機嫌になった。
「それで、妖魔はどこで呼んだらいい」
「山の麓辺りだが、すぐに召喚する気か?」
「あたりまえ」
「そうか」
小夜には、村正が何か残念がってるようにみえた。
「なに、村正。何か用があるの」
「いや、俺にはないんだが、小夜はせっかく神戸に来たんだから、肉でも食べるのかと思っていたのでな。神戸牛を」
小夜の耳がピクリと反応する。
「そうだな。小夜は、肉なんかよりも刀だよな。それでこそ小夜だ」
小夜は、青になった横断歩道を渡ろうとはしない。
そこに立ち止まり、俯いていた。
そして大声で叫んだ。
「うが~!!そんなこというな~肉食べたい~!!」
小夜の大声に、村正は慌てた。
「おいこら、こんなとこで大声出すな!」
「うるさいうるさいうるさい!肉食べたい肉食べたい肉食べた~い!!」
「意地悪言って悪かった。大声はやめろ。ここから離れろ!!」
我に返った小夜は、顔を真っ赤にしてその場を離れた。
はあはあはあはあ
「お前は馬鹿か。あんなとこで大声出す奴があるか。下手したら危ない奴だと思われて、警察がくるぞ」
「はあはあはあはあ。ごめん。肉が食べたくて」
「あれは冗談だ。肉くらい好きなだけ食べればいいだろが」
「ごめん」
小夜は自分のバカさ加減に、しょんぼりしていた。
「しょんぼりしても仕方がないぞ。今のことは忘れて、今日の所は肉を食え。そしてよく寝ろ。明日は包平をいただくんだろ」
「うん。今のは忘れる。そして肉食べて寝る。あしたは包平をいただくために」
「そうだ」
小夜は宣言通り、肉を食べてよく眠った。
ほんとにこいつは、アホほど肉を食べて寝たな。
小夜はさっそく山の麓を目指した。
「ここでいい?」
「ああ、いいぞ」
「ふんっ!」
小夜はいつものように村正を突き刺した。
妖魔が出てきたのを確認すると、近くの大きな樹の上に上った。
そして、5人の黒巫女たちによって、妖魔は封印された。
小夜は木の上から、黒巫女たち目掛けて飛んだ。
小夜が現れると、一人の黒巫女が話しかけてきた。
「現れたわね、狐面の悪魔。おととい美桜の奴に勝ったみたいだけど、図に乗るなよ。今日こそ黒巫女最強の、この博美様が斬り伏せてやる」
「死ね」
小夜は小さな声でつぶやくと、村正を握り締めた。
「なんだ、こわくなったのくわっ!」
「だまれ」
黒巫女は、口のあたりから上が、斬り飛ばされていた。
小夜は博美の手から包平を奪うと、他の4人に村正の切っ先を向けた。
「死にたくなかったら、そこをどいて」
初めて人が死ぬ様、それも人の頭が斬り飛ばされる様を見た黒巫女たちは、逆らう気が起こらなかった。
自分を最強なんていうやつに、ろくなのはいないな。
小夜を怒らせるだけだというのにな。
小夜は、あんなのが黒巫女だと思うと、胸がむかむかしていた。
「はらがたつ~」
いらいらしながらも、手入れの用意をしていると、段々と心は落ち着いてきた。
波紋を眺めるころには、すっかり落ち着いていた。
「はあ~、おちつく。重ねは薄くて、切っ先は猪首(いくび)地鉄は小板目で
地沸(じにえ)があって、淡い乱れ映り。刃紋は小乱れで互の目(ぐのめ)に
小丁子がまじって、大包平(おおかねひら)みたい」
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