第4話
「ねえ美紀」
「なに?」
「東京の方で、黒巫女が襲われて刀を奪われた話聞いてる?」
「うん。なんか、狐のお面被った変態でしょ。そいつ、やっぱり強いのかな」
「たぶん、ものすごく強い。この前は、3人の黒巫女が手も足も出なかったっていうし、そいつたぶん、黒巫女」
「なにそれ、黒巫女が黒巫女襲ったっていうの?信じらんない」
早紀の話は本当なのか?
そんなの、前代未聞の話ではないか。
黒巫女が黒巫女を襲うなんて、あってはならぬ出来事じゃ。
一体何が起こっとるというのじゃ。
長光を奪ってから1週間、村正と小夜は九州にいた。
「なにをふてくされている」
「なんで九州まで」
「1か所に、いつまでもとどまるのは、得策ではないからな。いつまでもいたら、黒巫女が数をそろえてやってくるかもしれんからな」
「それでもよかった」
は~っ。
まあ、余程の奴がいない限り、大丈夫だろうがな。
だが、こんな楽しい事、すぐに済ませては勿体ない。
こんな楽しいことは、じわりじわりとやるのが1番だ。
想像するだけで、ぞくぞくするな。
神野の家が、少しずつ衰退してゆくのが見えるようだぜ。
「むらまさ」
「お、おう、どうした」
「おなかすいた。何かお勧めない?」
「おすすめか。では、熊本ラーメンはどうだ」
「ラーメン。それいい」
「では、市内で探すか。ついでに、神野の刀も探しておく」
村正は、神野の刀が纏う妖気で居場所を見つける。
小夜が、熊本ラーメンを食べていると、村正が問いかけた。
「小夜よ」
「なに」
「いいものが見つかったぞ。孫六に虎徹だ」
「うそっ」
ふふ、相当うれしいらしいな。
特に、孫六は。
以前から、孫六の三本杉が見たいと言っていたからな。
「どちらを狙う気だ」
「どっちも貰う」
「一つに絞れ」
「いや。どっちも貰う」
しまった。
俺としたことが。
欲しかったものが2つあれば、どっちも欲しがるのはわかっていたはずなのに。
まあ、こいつの実力なら大丈夫か。
1度目の妖魔召喚では、虎徹の持ち主と、その他5人が現れた。
Cクラスの妖魔を封じるには、5人は多すぎる。
多分警戒していたのだろう。
近くに高い建物がないため、小夜は妖魔を召喚した交差点から離れたところで
見守っていた。
小夜は、封印が終わるのを感じ取ると、狐の面をかぶり、交差点目掛け信じられない速さで走って行った。
交差点の手前で、魔導機動隊に出会ったが、数人斬り伏せ飛び越えて行った。
交差点に小夜が着くと、黒巫女たちは待ち構えていた。
「やっぱりきた。支部長の祖母ちゃんの言う通りだ」
「小夜よ。あいつが虎徹を持っているぞ」
「わかった。用があるのはあんただけ」
小夜は、虎徹を持つ黒巫女に切っ先を向けた。
「何言ってんのあんた。いまから狩られるっていうのに」
「そう、わかった。それから先に謝っとく。あんたには何の恨みもないけど、死んでもらう」
「くっ!みんな、こいつ死なない程度にボコって!」
これが合図となり、一方的な戦いは始まった。
小夜は刀を抜かずに、溝落ちに納刀したままの柄や鞘を叩きこんだ。
それでも黒巫女は向かって来るので、小夜は足を叩いて折っていった。
5人は足をへし折られ、戦う事も立つことさえもできない。
そんな黒巫女たちの目の前で、虎徹の持ち主は首をはねられて死んだ。
首を落とされた体からは、血が勢いよく噴水のように吹き出している。
そして、ふらふらと数歩歩いて、倒れた。
5にんの足をへし折られた黒巫女たちの上には、血が雨のように降ってくる。
黒巫女たちは、狂ったように泣き叫んだ。
「うわっ、きたない。早く虎徹持って帰ろ」
それを遠めに見ていた魔導機動隊は、小夜がその場から離れるのを待っていた。
離れれば小銃で小夜を撃つために。
そして、もう一つの作戦を見破らせないために、これみよがしに銃を構えて見せていた。
しかし、小夜は動かない。
ある一点を見つめていた。
まさか、バレている?
「この間とは違うんだ。ふ~ん」
少しだけ、小夜は笑ったように見えた。
小夜は、クラウチングスタートのような構えをとった。
見透かされていると悟った機動隊は、狙撃銃の発砲音とともに一斉に銃を撃った。
しかし、そこには小夜はもういない。
低い体制のまま、機動隊の目の前にいた。
10秒後には、全ての人間がやられていた。
「死なないくらいにはしたと思うけど、早く病院に行った方がいいよ」
目の前にいた機動隊員にそう告げると、小夜は歩いて消えて行った。
ホテルに着いた小夜は、早速手入れを始めた。
「へ~え。これが、虎徹の数珠刃かあ」
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