第5話

「う、うそ」


少女は、友人の首から下の無い頭を抱きかかえる。

少女の嗚咽と涙は止まらない。

しばらくすると、少女の肩に誰かが手を置いた。


「泣くな。あたしが必ず、仇は撃つ」

「由美姉・・・うん。私も手伝う」

「相手は強い。死ぬかもしれんぞ」


ふたりは、神野 由美と由紀。

実の姉妹である。

二人は、九州の黒巫女の中でも、指折りの二人だった。

黒巫女の九州支部は、この二人を出し惜しみした。

小夜がここまで被害を大きくするような、実力を持っているとは、思っていなかったのである。

九州支部の長老たちは、東京で起きたことを知っていながら、小夜を過小評価していたのだ。

九州支部は、この失態を払しょくするために、特別討伐隊を結成させた。


「村正、孫六ほしいんだけど」

「今は我慢しろ。騒ぎが大きくなり過ぎたからな」

「なんで、またやっちゃえばいい」

「だめだ」


あれだけのことやらかしたんだ、相当警戒されているだろうな。

今出てゆけば、絶対に人数も強さも桁が違ってくる。

そんな分かり切ったことで、お前を死なせるわけにはいかない。

我はもっと、楽しみたいのだ。


「村正。やっぱりわたし、早く孫六が欲しい」

「う~ん。しかたがない。少し待て。作戦を考える」


暫く村正は考える。


「小夜よ、今すぐ電話しろ。市内に妖魔と一緒にお前が現れるとな」

「私が電話?」

「そうだ。黒巫女の支部でもなんでもいい。早く電話しろ。孫六が欲しいんだろ」


その、孫六が欲しいの一言で、小夜は電話を掛けた。

黒巫女九州支部へ。


「も、もしもし、く、くろみこのしぶさんですか?」

「しぶさん?黒巫女には渋さんなんて人はいません」


そう言うと、電話は切れた。


「おまえ、緊張しすぎだ。普通に喋れ。そうだな、今度はまず、自分は狐面だと伝えろ」

「う、うん」


再び小夜は電話をした。


「もしもし、わたし」

「あっ、またいたずらですか。きりますよ」

「ま、まって。わたし、狐面の人間なんですけど、市内に妖魔と私が現れますので、よろしくおねがいします」


「こんな感じでどうかな」

「妙に礼儀正しかったが、まあいいだろう」


そして、村正と小夜はホテルを後にした。

村正たちはマンホールから地下に潜った。

市内に入ったところで、小夜に天井を突き刺すように村正は命令した。

次はあそこだ。

村正を刺した跡の地上では、妖魔が姿を現していた。

20か所以上から妖魔が召喚されたころ、村正はマンホールから出るように小夜に言った。

マンホールから出た先は、このあたりで1番高いビルの下だった。


「よし、ビルの屋上にのぼれ」

「うん」


屋上に上ると、村正は孫六を探した。

みつけた。

あの交差点にいるな。


「おい小夜。孫六を見つけたぞ」

「ど、どこ?」

「右手の2本目の道路を北、2つ目の交差点だ」

「わかった」


小夜は、交差点目掛けビルから飛び降りた。


「お前が狐面の悪魔か!」

「分散している今のうちにとっとと、やっちまえ小夜」

「・・・」

「どうした」

「こいつ、結構強いかも」

「ほう」


小夜が強いと思うようなやつがいたのか。

遊ばせてやりたいところだが、早くやらなければ多勢に無勢だ。


「遊びは無しだ。さっさとやれ」

「うん、わかった」

「何をぶつぶつ言っている!このきつねが!」


小夜は左腕を照準のような形で前に出した。

そして、相手に向かって突きを放った。

正眼に構えていた黒巫女は、肩に突きが命中。

体重の乗った突きは、肩を突き抜けたあと、黒巫女は吹き飛ばされた。

小夜は、黒巫女の手から離れた孫六を拾い上げた。

立ち去ろうとする小夜に黒巫女は


「くそっ、殺せ!」


と、小夜に言った。

しかし小夜は


「う~ん、もうちょっと強くなったら、殺してあげる」

「わたしは殺す価値もないということか」


小夜の言葉に、黒巫女神野 由紀は、力なくうなだれるのであった。

そして、小夜は逃げ切った。

小夜は、山奥の宿屋に着くと、さっそく孫六の手入れを始めた。


「へ~、これが互の目尖りの、三本杉かあ~」

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