第3話
「力任せに刀を振らない!」
「うっさい、だまれ!」
美紀は今、稽古をつけてもらっている。
つけてもらっているくせに、偉そうではあるが。
稽古をつけてくれているのは、神野 早紀(じんの さき)17歳。
美紀とは同い年で、同じ高校の学友でもある。
コイツもやはり黒巫女じゃ。
早紀は、なんだかんだと言いながらも、美紀の面倒を見てくれる。
ほんとに早紀には、感謝の言葉しかない。
「はあはあはあはあ、ほ、ほんとにあんたは、体力だけは、一人前ね」
「だ、黙れブス。はあはあはあはあ。あたしを、体力しかとりえのない馬鹿みたいに言うな」
「よくわかってるじゃない」
「なにを~!こんどこそ、タコ殴りにしてやる!」
「やれるものならやってみなさい!」
・・・・
これはこいつらなりの、コミュニケーションというやつだ。
ほんとだ、信じろ。
いつもはこんなこと・・・いや、やっているか。
だが、憎しみなんかはない。
そのへんだけは、わかってやってくれ。
「かすった。かすったぞ。あたしの勝ちだ~!」
「ちっ、くやしいけど、負けたわ」
「やった~!」
この娘、でたらめな剣だけど、やっぱり強い。
私は、防御に徹していたというのに。
美紀はそんなこと、気づいていないみたいだけど。
でも、美紀が私にかすり傷一つつけられないところで、「これでわかった?剣術の型がいかに大事かってことが」って、言ってやるつもりだったのに。
くやしい~
なんか早紀の奴、ものすごく悔しがっとる様子だな。
少し掠っただけなのにな。
「それじゃ、稽古はここまでにしましょうか」
「あ、うん、わかった。それじゃ、冷たいジュースでも入れてくる」
「うん、ありがと。その前に、美紀の正宗貸して。私の藤四郎の手入れのついでに、正宗も手入れしてあげる」
美紀は早紀の言葉なら、素直に聞き入れている。
やはり仲は良いのだろう。
そして、わしはこの時が楽しみだ。
美紀の拷問と違い、早紀の手入れは、子供の頭を優しくなでるような手入れだ。
目抜き釘がはずされて、久しぶりに柄から出られた~
きもちがいい~
おお~、古い油も拭い去られてゆく~
待ってました~早く打ち粉をしてくれ~
はあ~ごくらくじゃ~
「美紀、蝋燭立ててちょうだい」
「え~、また~」
「いいからはやく」
「はいはい」
蝋燭が立つと、早紀は正宗の波紋を刀を立てて眺めたり、切っ先を蝋燭に向けて眺めたりしている。
「湾れ(のたれ)に沸(にえ)、砂流し(すながし)かあ~。いいなあ~まさむね」
おいおい、そんなに褒めるなよ。
照れるではないか。
「すきだよね~早紀ちゃんも」
「えっ、なにが」
「ここに来たときは、かならず正宗の波紋見て帰るから~」
「だって、刀の刃紋ってきれいじゃない。何時間でも見ていられるわよ」
「綺麗なのは分かるけど、何時間でもっていうのは、ちょっとね」
「刀の魅力にはまれば、時間なんて気にならなくなるよ」
「そうなんだ。だったら、あたしは刀の魅力なんかには、はまらないでいいや」
おいこら、美紀。
お前は早紀の爪の垢でも煎じて飲むべきじゃ。
そうすれば、わしのことももっと丁寧に扱うだろうて。
早紀は30分ほど正宗を眺めた。
おっ、終わりか早紀よ。
ありがとな、心も体もすっきりしたぞ。
こんどは、おまえの藤四郎吉光か。
直刃(すぐは)に互の目(ぐのめ)湯走り(ゆばしり)か。
流石にいい出来だな。
手入れも行き届いている。
流石は早紀じゃ。
ほんとに美紀には、爪の垢を煎じて飲んでもらいたいものじゃ。
早紀は、同じように藤四郎を眺める。
そして、30分ほど眺めたあと、藤四郎を鞘に納めたのだった。
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