第2話
吾輩は名刀である。
銘は、茎(なかご)に刻まれている。
正宗と。
しかし我は、正宗ごときが鍛えた一振りではない。
我を鍛え上げたのは、刀匠村正である。
妖刀とされた我は、忌み嫌われ、村正の村を消されて、代わりに宗を刻まれ正宗と刻まれている。
忌々しい。
だが、そんなことは昔の話、今は面白い主に使われている。
「村正、ほんとにあるの、長船長光」
「ああ、いるとも。妖魔でも呼び出せばすぐに出てくる」
「そう」
コイツの名前は、神野 小夜(じんの さや)。
家を追い出された元黒巫女だ。
そしてこいつは、復讐と趣味の二つをかなえるために、刀狩りをしている。
実に面白いと、我もこいつに力を貸している。
名のある刀を探し出すことと、妖魔を呼び出し、黒巫女を誘い出すという力を。
「ここでいい?」
「ああ、悪くない。ではいつものようにな」
「わかってる」
小夜は一つ頷くと、交差点に村正を突き刺し抜いた。
すると、刺したあとから黒い煙が立ち込め、煙が晴れると、そこには妖魔がいた。
呼ばれたばかりの妖魔は動きが鈍い。
だからすぐに、結界で動けなくする必要がある。
黒巫女の勝算をあげるために。
「早速来たようだな、結界士たちが」
「・・・」
「無口だな」
こいつは、非常に無口だ。
必要以上は喋ろうとしない。
そのほうが、我も楽だが。
10分ほどすると、3人の黒巫女たちがやってきた。
「私が正面。あなたたちは、側面からお願い」
「りょうかい」
「おっけ~」
「それじゃ、いくよ」
戦う黒巫女たちを、村正と小夜はビルの屋上から見ていた。
「よわい」
「そうだな。長光はもったいないな、あいつには」
「それで、どれが持ってるの」
「ああ、あの長い太刀がそうだ」
「ふ~ん」
そして、30分ほどしたころ妖魔は封印された。
「いくぞ、小夜」
「わかった」
小夜は頷くと、狐の面を取り出し被った。
そして、両の手を広げ、ビルから黒巫女目掛け、飛び降りた。
小夜は着地すると、すぐさま長光を持った黒巫女以外を、戦闘不能にした。
「そ、その狐の面。刀狩りの狐。あんたなんかに、うちの家宝は渡さない」
「そう。じゃ、勝ってみせて」
「言うまでもない!」
小夜は、軽くその剣を捌いてゆく。
村正を抜くことなく。
「な、なぜあたらない。この、私の新陰流が」
「・・・」
「くそっくそっくそっ!」
「もういい、うざい」
こいつも、だめだったみたいだな。
小夜が遊ぶこともできない。
いい刀を持っているなら、腕もいいと思っていい刀を探しているんだがな。
村正が、そんなことを考えていると、小夜が柄を握り締めた。
そして、後ろに飛びのきざまに、小夜は村正を抜き放った。
血しぶきが舞、黒巫女は両の手を落とされた。
小夜は長光を拾い上げ、元の持ち主に言った。
「だいじょうぶ。弱い人は殺さないから」
「きっ、きっさま~」
黒巫女は、痛さを堪え小夜を睨みつけるが、小夜は気にしない。
小夜が立ち去ろうとすると、魔導機動隊が前を塞いだ。
「公務執行妨害及び殺人未遂の現行犯で逮捕する。投降しろ」
「・・・」
小夜は無言で、立ち止まろうとはしない。
「と、とまれ!」
「・・・」
「く、くそ。止まらないと撃つぞ」
「・・・」
無言で止まろうとしない小夜に恐怖した隊員は、発砲した。
発砲音とともに、キンっと甲高い音がしたかと思うと、発砲した隊員は倒れ伏した。
額に穴をあけられて。
普通なら、動揺した隊員たちが続いて発砲してもおかしくはなかった。
だが、できなかった。
体が凍り付き、何も考えることも、怯えて撃つことさえも出来なかったのである。
小夜は、魔導機動隊を、刀の鞘でかき分け消えて行った。
「小夜よ、これからどうするのだ」
「おなかすいた」
「何か食べて帰るのか」
「うん」
「では、帰ったら久しぶりに、手入れでもしてくれ」
「わかった。手入れする」
ホテルに着くと小夜はまず、蝋燭を一本立てた。
そして、長光を鞘から抜いた。
そして、刀身をいろんな角度から眺めた。
「丁子乱れ(波紋の一種)がきれい。でも、手入れが悪い。かわいそう」
これで分かると思うが、こいつの趣味は、収集と刀を綺麗にすること。
こいつの綺麗は、波紋を綺麗に浮かび上がらせることだ。
コイツの最終目標は、神野が所有する刀をすべて奪い、綺麗にすること。
いまはまだ、よい刀を選んで奪ってはいるが。
こいつにとって、刀を奪うことは、刀を救い出すと同義語なのだ。
おっ、長光の手入れが終わったようだ。
「どうだった。長光は」
「波紋は綺麗。でも、ちょっと手入れしたくらいじゃ、だめみたい。くそっ、あいつ殺しておけばよかった」
「かりかりするな。両手も落としたし、次の奴をころせばいい」
「わかった。そうする」
「いい子だ」
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