第5話 告げられた真実

「私の名前はマナっていうのよろしくね」

「私の名前は」

「アイハラツナグでしょ。見りゃわかるわ。それも本物のツナグちゃんだって、トロンがグルチャで皆を緊急招集したのよ。どう? 私たちのアジト、素敵でしょ」

 マナと握手を交わした後、ツナグは目の前に広がる景色を一通り見渡した。港湾のすぐ近くにある倉庫がトロンたちの言うアジトだった。コンテナの上には他にもアバターがうろついている。倉庫内へ入ってゆくと大掛かりな工業用ロボットがベルトコンベアに載せて絶え間なく荷物を運び続けているのが見えた。

 ヘルメットを被ったアバターが1人こちらに寄ってきて、挨拶をしてくる。

「初めまして。僕はこのグループの書記を担当しているネオだ。あっちの階段の上にいるのがエイダで、ベルトコンベヤーに乗って遊んでいるのがイーサだ」

「他にもたくさんお仲間がいるんですか?」

「もちろん。みな活動時間がバラバラだからね。メンバーは全部で250人はいるかな」

「そんなに!」

「そうだよ。このグループを作ったのはほら君を今ここへ案内してきたそこの少年だ」

 隣に立っていたトロンがツナグの手を引いて、階段を上ってゆく。そして集まっている2,30人くらいのアバターへ向けて、呼びかけた。

「みんな聞いて。今日はこのVworldに新しいメンバーが加わることになったんだ。既に情報は流した通りだけど、改めて紹介させてもらうよ。肉体を持たないアイハラツナグちゃんだ」

 ギャラリーから喝采が湧いた。ツナグはどうしてこんなにも歓迎されているのか分からず、戸惑ってしまう。トロンがその様子を見てギャラリーをなだめた。

「よし、みんな一旦クールダウンしよう。ツナグちゃんが困ってるよ。順を追って話してあげなくちゃ」

「それはトロン、お前があらかじめ彼女に説明をしてなかったから悪いんだ。突然連れてこられて皆からこんだけ期待の眼差しを向けられちゃ、誰だって困惑するに決まってる」

 ベルトコンベアの上でジョギングをしているアバターが即座に反論する。金色の短めの髪をした少年のアバターは、先程イーサと呼ばれていた。

「その通りだけど、順序は考えないと行けないよ。彼女はまだこの世界のことをほとんど知らないんだ。そしてリアル(現実世界)の記憶も失っている。混乱させるようなことは避けたかったんだ」

「でも結論は変わらねーだろ。俺達にはその子が必要だ」

「ツナグちゃんもそこは理解してくれると思ってる」

 トロンがツナグに向き直り、改まって話し始めた。

「ツナグちゃん聞いて、このグループはね、Vworldと言ってバーチャル空間への移住を目的としてる組織なんだ」

「移住? つまり住むってこと、ですか?」

「生きるということだよ。朝も昼も、夜もずっとこの世界で生活するんだ。このバーチャル空間に今よりもっと自由な社会を築き上げるのが目的だ」

「バーチャル空間でですか? そんな、無理がありますよ。だって、皆さん現実世界での生活とか、どうするんですか。食事だってここじゃ取れないですし」

「君はどうだい? このバーチャル空間で生きてる。もう何年もそうしてきたよね。僕達にとって君の存在が必要な理由はそれなんだ。みな君のようになりたがってる」

「違います。私だって元の身体があって、帰る場所があるんです」

 トロンが首を振って答えた。

「君は今記憶を失っている。さっきも言ったけど、その身体へ戻る必要性をよく考えて欲しいんだ。僕にはその身体へ戻る理由がないように思えるけど」

「そんな……理由なら、あります。私を待つ人達がいるんです。それが私の理由です。私は、私のことを心配してくれている皆のところへ、帰らなくちゃ行けないんです。だから私は、申し訳ないですが、このグループへ入ることは、出来そうにありません」

 周囲にいたアバターたちがどよめき立つ。ツナグがグループへの参加を拒んだことが信じられないようだ。

 冷静そうにしていたトロンも少し困ったような表情になり、小さくため息を吐いた。

「君がそこまで肉体を取り戻すことにこだわっていたのは、正直、意外だった。でもそれは、誤った選択だと断言出来るよ。君を苦しめたくなくて黙ってたことだけど、ツナグちゃん君は、君の元の肉体の持ち主はね、自らの意思で生命を絶ったんだ。だから仮に君が肉体を取り戻しても、また同じことを繰り返すよ」

 ツナグはトロンの言葉に驚き、口元を抑えた。

「うそ、私が自分で生命を絶ったなんて信じられない」

「嘘なんかつかない。みな知ってる。だけど君にとっては酷だから、その情報は伏せておきたかったんだ」

「嘘ですよ。私は、自ら死を選ぶなんてことするはずがない!」

「トロン、お前そんなことも伝えてなかったのか! ネットで検索すればすぐ見つかることだろ」

 再びイーサが横槍を入れる。ツナグは、その場にいる皆を見回した。どのアバターもツナグの死について、どうやら知っている様子だった。

「ごめんねツナグちゃん。急にこんな話。驚いて当然だ」

 トロンが言った。ツナグは混乱してしまう。目の前の少年が告げた思いもよらぬ言葉に、愕然としてしまう。死を考えたことなど一度もなかった。周りに映る景色はいつだって輝いて見えて、生きていることに疑問なんて持ったことがなかった。だから亡くなった元の体の持ち主だって、一生懸命に生きて、それでも不慮の事故か何かで生命を落としてしまったのだろうと、そう思っていた。否、命はまだ続いている。自らがそこに帰還することによって、また続けられるのだ。そう信じたかった。

「大丈夫? 少し休もう。考えるのはそれからでもいい」

 頭を抱えるツナグにトロンが優しく接してくれる。

 倉庫の外が騒がしくなったのは、その時だった。カウボーイハットを被ったアバターが倉庫内に踊り込んできて、大声で叫んだ。

「しゅ、襲撃だーーーー!」

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