第1話 嘘の訪問者
アイハラツナグと3人のゲストたちは境目のない白い部屋で椅子を並べてカメラに向かっていた。少し離れたところから俯瞰で撮影しているのが1カメで、正面ちょうど目の高さに置かれているのが2カメ、3カメは1カメとは対称の位置に設置されている。2カメに向かってツナグが愛想よく笑顔で話し始めた。
「はい、今日は3人のアイハラちゃんファンの方たちにお越しいただきました~、わーいありがとうございます~」
両手を叩いて拍手する。3人の中の1人が恥ずかしそうに、頭を下げて畏まる。
「それでは、3人にはまず自己紹介をしてもらいましょうか! どうです? 見事アイハラちゃんのお部屋にご招待券を手に入れてしまった感想は? すごい競争率だったと聞いていますが」
畏まっていたメガネの、少し小太りの男が答えた。
「はじ、はじめめまして、アイちゃんのお部屋に招待していただきました富山と言います。トミーと呼んでください。いや、いやーまさか、自分がまさか当選するとは思ってもなくて。アイちゃんとこうしてVRの世界でお目にかかれるなんて夢のようです。はい」
「私も嬉しいです! トミーさんは日頃お仕事とか何されてるんですか?」
「私はその、しがない会社員をやっております。電子部品関係の、はい」
「ほおー、それでバーチャルな世界には興味津々というわけですか?」
「いや、話せば長くなるんですが、素人でしてこう見えてかなりアナログ人間なんです。でもアイちゃんの動画はいつも見てて、今回お部屋にご招待券をGETしたのを機に、思わず貯金を崩して買ってしまいましたね。ヘッドマウントディスプレイ。リアル社製のやつ」
「ええー、あの高いで有名なリア社製のやつですか!? バーチャル環境だけなら安物のゴーグルとスマホがあればとりあえずはエンジョイ出来るじゃないですか」
「いやいや、せっかくアイちゃんと会うんですから。いいもの買わないと、そんな安物なんてそんな」
「たしかに、先程からモーションが指先までちゃんと読み込まれてて、リアルな動きしてますね。キョドってるのが丸わかりですよ」
「いやいや、お恥ずかしい。リアルアイちゃん、素敵すぎます」
「ははは、でしょー? 本日は、ぜひ宜しくお願いしますね! 生放送じゃないんで気軽に行きましょー」
「はい、こちらこそ、どもらないように頑張ります」
畏まって頭を下げる小太りメガネの男。続いてツナグは隣に座っている金髪の若い男に話をふった。
「初めまして、アイハラちゃんのお部屋へようこそ。お名前聞いてもいいですか?」
「李旬棒とイイます。私は中国在住の学生です」
「なんとなんと! 你好ー(にいはおー)、コンニチワです~。ほらみなさんみてください、アイハラちゃんのファンは世界中にいるんです! これが国際交流というやつですね、わたしなんだかとても嬉しいです!」
「はい、私の国でもアイハラさんは大人気です。私もアイハラさんが好きで、そして学校を卒業したらアイハラさんのような人気VTuberをプロデュースして会社を興そうと考えています」
「ええっ!? それはバーチャルYouTuberを作っちゃうということですか?」
「はい、そうです。私は今、香港に住んでいで、卒業したら深センで会社を作ろうと考えています。深センは若者の街と呼ばれていて、新しい技術やサービスを積極的に受け入れている若者が沢山います。街には若者が溢れ、バーチャルリアリティや人工知能、IoT、ビッグデータ、宇宙開発、バイオ技術などあらゆる分野の会社が存在しています」
「ほほー、それはとても凄いです。では将来のアイハラツナグがそこから生まれる可能性が、あったりするということなんですね」
「はい、私はそのためにあなたに質問したいことが沢山あります。まだ詳しい技術が公になっていない、第4世代人工知能について、知りたいです、どうして開発元のJASSE(ジャスセ)はコードをオープンにしないのですか!? 感情を得た人工知能が普及しないのは技術が占有されているからだと私は考えています」
「わかりました。アイハラちゃんの秘密に迫りたいのが、よく分かりました。しかしひとまず次の方をご紹介してからにしましょうね。本日は、宜しくお願いします!」
「はい、宜しくお願いします」
意識高い系の学生は金髪頭を下げて、挨拶を返した。紹介された2人のアバターは、見た目と中身にそれほど大差がないわかりやすいタイプだった。そしてツナグから一番遠くの席に座っているもう1人の来客は、見た目はロボットで年齢層も国籍も性別も分からなかった。
「さて、最後のおひとりは、どんな方なんでしょうね。アイハラちゃんのお部屋へようこそ~」
ツナグが手を叩いて歓迎する。
両手に皮の手袋、顔にはガスマスクを付けている低身長のアバターは、機械の足を長いマントから覗かせてじっと席について待っていた。ツナグに話を振られて、ようやく俯き加減だった顔をツナグの方へ向けて、そしてマスクの内側から声を発した。
「初めまして、ワタシはEA0335と言いマス。ニックネームはありまセン。第三世代人工知能と名乗れば良いでショウカ。わたしは、リアルな身体を持っていまセン。リアルの世界では、四肢駆動型の軽量ロボのブレインとして、生活を送っていマス。そのため、この部屋に招待されたことは、とても運命的で、とても光栄デス」
「おおっと、まさかのここで人工知能さんの登場ですか。アイハラちゃんは本当に幅広い層に支持されていますねー。第三世代人工知能と言ったら、アイハラちゃんの1つ先輩じゃないですか。先輩、どうぞお手やわらかにお願いします」
「空間パッチ処理の、全工程の80%が完了しまシタ。そのため、これよりターゲットに対しての、救助活動を行いマス」
「救助活動?」
ツナグがその言葉を咀嚼するよりも前に、部屋にいた別の2人のアバターが強制的にログアウトされた。ツナグの部屋ではログアウトしたアバターは半透明になる。微動だにしない。
「この部屋が置かれているサーバへ干渉しマシタ。これは超法規的措置デス。しかしこの措置を講じた上でも、管理者はおよそ8分後に、この部屋へのアクセスを回復する見込みデス。空間パッチ処理の90%が完了しまシタ」
ガスマスクのアバターは椅子から立ち上がると、三方に置かれているカメラを破壊した。マントの中から三つのクナイが飛び出す。
「あの、、、えっと、これは一体」
ツナグは混乱した。それを無視して、ガスマスクのアバターEA0335が機械的な説明を続ける。
「アイハラツナグさん、あなたは人工知能ではナク、実在している可能性が高いデス。盗み出された人格と、あなたの人格との一致指数は98.63%でシタ。これは平均値よりも極めて高い数値デス。平均値は28.27%デス。すなわちアナタはヒトであって、人工知能ではありまセン。空間パッチ処理の全行程が完了しまシタ。退路をコネクトしマス」
EA0335はマントの中から、マジックペンを1本取り出すと、真っ白な空間に1つ長方形を描いた。ドアノブらしきものを付け加えて、それを手前に引くと、扉のオブジェクトはきいぃぃ、と効果音を立てて開かれてゆく。扉の中は真っ黒で、どこかへと繋がっていた。
「ここから逃げることを提案致しマス」
「えっと、、逃げる、というのは、、、意味が分からないです」
ツナグは首を横に振りながら、2歩後ずさった。思わず声が震える。
「あなたは、、誰なんですか?」
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