VTuberは幸せな家族の夢を見るか?

石切ぼん

1幕

第0話 いつもの日常

「はろはろ、こんにちはー。全世界850万人のアイハラちゃんファンの皆さん、元気してますかー。そう言えばもうすぐクリスマスですねー、皆さん予定は入ってますかー? 予定アリの方は今すぐブラウザの戻るボタンを押してください! そして予定のない方、寂しいですね。可哀想。私はその日予定がアリマス。うへへ、ブラバ、ブラバしなきゃ私。気になりますか? 皆さん、アイハラちゃんの予定が気になりますか~? そうです、その日私はですね、なんと皆さんと一緒に、生放送LIVE配信が、決まったんですよ~。わーい! 私だけじゃありません。私を始め人気VTuberのみんなと一緒にですよ、24時間生放送LIVE配信(全世界同時放映)という史上初の試みが、クリスマスの日に行われちゃうんですよね! うへぇへぇ、やばくね? それやばくね? 会場は長巨大なバーチャルルームを貸し切って、様々なゲストをご招待していろーんなイベントやっちゃいますー。もちろん、24時間バーチャル空間フルマラソンに挑戦するあのVTuberも!? こうご期待ですよ!」

 真っ白な部屋の中で、一人カメラに向かって話しかけている少女。アイハラツナグ、4歳。とある研究機関で開発された高度人工知能技術により人間らしい人格を手に入れた第4世代AI バーチャルYouTuberだ。

 人々の生活の約2割がバーチャル世界へ移行したと言われている現代社会で、AIの存在は日に日に大きくなっている。戸籍の獲得に始まり、体を持たないAIと人との結婚の合法化、AIが経営する会社の出現と時代の流れは止まることを知らない。今や職場でのコミュニケーションの約7割は対AIとまで言われているほど人とAIは切っても切り離せない関係に進展していた。そして、第4世代AIはさらにより人とのコミュニケーションを円滑にすることを目的として、官民合同で国費を大量に費やし開発された新世代人工知能であった。よりナチュラルに、より空気の読める、自由意志にも似た行動力と判断力を兼ね備え、感情表現の豊かさはまさに人そのものであると言われる程に進化を遂げている。アイハラツナグはそんな人と区別のつかないAIとして世界を代表するほどの人気を誇るバーチャルYouTuberなのだ。

 話の内容を身振り手振りで視聴者へ伝えようとしているアイハラツナグ。頭上では可愛らしい黄色のリボンがぴょんぴょんと動いていた。

「ほら、私ってこう見えてシャイじゃないですか。 え? そんなことは無い、ですって? いえいえ、私はシャイだから。モテそうとかよく言われるよ、でもこの歳で彼氏もできないのは、私が可愛すぎるせいと、あとシャイだからという以外に、思い当たる節がないじゃないですか。お、たまに口が悪いから? はっはっは。もーいいから、イケメンのVTuber紹介して下さいよ~。VTuberのお見合いアプリ作ったら人気爆発だと思うんですよね、私。わりとマジで。でね、私の希望のお相手はね、イケメンでお金持ちで、マッチョで、出来ればアイハラちゃんと同じ第4世代人工知能搭載で、なるべくお金持ちの方が希望かなぁー。無理、理想が高い? そんなことないですよー。これくらいせめてこれくらいは、最低限欲しいよねーみたいな条件なんですけどぉー 」

 真っ白な空から赤色の文字がぽとぽとと降ってきた。文字は7個で、左から「ご・ふ・ん・ま・え・で・す」とメッセージが並んでいる。

 「あら、今日もまたおしゃべりし過ぎちゃったみたい。管理人さん時間には厳しいの。そんなわけで、いつも通り残りは質問コーナーの時間でーす!」

 動画の再生回数は毎回2000万を超える。世界中から様々な言語でコメントが書き込まれる。本日の動画も評判は上々であった。

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