最終章 彼の青空と、私の雨空

私は雨の中、あなたに会いました

 Dear 久城さん


 あ、Dearって書くと、愛しい人? って意味なんでしたっけ? もしかして恥ずかしいこと書いちゃったのかしら。


 あまりこういうの慣れてないので、もしも間違ってたら、ごめんなさい。


 慣れていないというか、手紙を書くの、初めてなんです・・・ごめんなさい。


 えっと、ごめんなさいばっかりだと、また久城さんに怒られちゃうかな。久城さんって、意外と短気だから、見た目と違ってびっくりしちゃうときがあるの。


 そうじゃなくて、私、久城さんに一杯、ありがとうって伝えたいことがあるんです。


 久城さん、私と初めて会った時のこと、そろそろ思い出してくれましたか?


 前に病院の屋上で話したあとも、久城さんたら、全然思い出してくれないんだもん。私もさすがにぷんぷんです。


 でも、いいんです。


 だってあの時の久城さんは悲しい顔をしていたから。


 お父さんに、気持ちを託された時、なんですよね?


 仕方ないですよ、私のことを覚えていないのも。


 私が久城さんに声を掛けた時なんですけど、あの時久城さん、食堂の大きな窓を悲しそうに見つめていたんですよ。


 その時にね、はっきりと私、色が見えたんです。


 雨の厚い雲の中、あなたを照らした光の色が。


 だから私、声をかけちゃったの。


 ねぇ、泣いてるの? って。


 そしたらね、いいや泣いてないよ、って久城さんは言ってね。


 悲しいのに泣かないの? ってまた私が聞き返したの。


 悲しいけれど泣けないんだ、私の涙はね、涸れてしまったからね。なんて、久城さん、本当に悲しそうに……氷のように悲しい笑顔を私に向けたの。


 だから私、代わりに泣いちゃった。


 ねぇ、思い出した?


 もう思い出してくれていますか?


 久城さん、いつか私が君の代わりに泣いてあげるよ、って言ってくれたんですよ。


 思い出しました?


 そう言えば、この手紙は宮前さんに預けているんです。


 私が死んでしまったら、渡してねってお願いしているの。


 きっとあなたをたくさん、悲しませてると思うわ、私。


 恋人にも、結局なれなかったですね。


 あなたの夢にも、会いに行けなかったですね。


 それなのに私、死んじゃうの。


 でもね、託したいものを、託したい人を見つけられた。


 わかりますよね、久城さん。


 私はあなたに託したいんです。


 大好きな、あ、Dearでやっぱり正解ですね。


 大好きな、久城さんに。


 久城さん、私、あなたにね。


 大層(←漢字、あってます?)なものをあげられないんですけど。


 私の涙を、ぜーんぶあげます。


 私、久城さんのために、一杯泣けるの。


 私の涙はね、きっとたくさんあるから。


 だから、涸れちゃった久城さんに、全部あげます。


 この手紙を読んだときは、私のために泣いてくださいね?


 そして、これからは・・・私に言ってくれたみたく、自分のために泣いていいんですよ。


 悲しいなって思ったら、私の涙を自分のものだと思って、思いっきり使ってください。


 大好きな久城さん。


 私だけの、魔法使いの久城さん。


 いつかきっと、夢に会いに行きます。


 待っていてくださいね。


 P.S


 あなたを、愛しています。

 私と出会ってくれて、ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る