独善/3/【証人】猪狩駿
猪狩もまた、天音と同じく宣誓文を読み上げ、裁判官より虚偽の証言を行った際のペナルティの説明を受けると、力強く頷いた。
「証人、証言を」
「はい」
猪狩は手を後ろで組み、ハキハキとした声で話し始めた。
「久城真治、天音孝道、両者とも嘘を吐いております!」
また空気ががらりと変わった。
それには傍聴席の人間だけでなく、証言台の脇に座っている天音もまた驚いていた。
「まず、久城真治から! 久城真治は……天音美星を、美星ちゃんを殺してはおりません! その時私はナースステーションにおり、彼女の生命維持装置の異常音を聞き、彼女の病室におりました! つまり久城真治は、彼女の病室にはいなかったのです!」
この発言に関しては、誰もが納得いくように頷いた。
「そしてまた、天音院長……天音孝道はその時、自宅に帰っておりました! 勿論、彼女の病状が一変してすぐに私が連絡を取り、病室に駆け付けてくれましたが、彼がずっと病室にいたということは、全くの嘘であります!」
「し、しかし……彼が言うように、家族が危篤の時に、近くにいないということは……」
二転三転する話に、さすがに動揺を隠し切れずに裁判官が聞き直すが。
「彼女の容体は六月十四日まで安定しておりました! 危篤状態でないことは、日報でも全看護師が、しっかりと記録して残っております!」
「そ、それを改竄するということは……」
「私達天音病院で働いていた者たち全て、そのような不義は致しません!! 我々看護師は、命を預かる身です! 嘘を書くことなど、有り得ません!!」
はっきりと、答える猪狩に狼狽しながら裁判官は頬を掻く。
「そ、それでは……その、久城真治、天音孝道、両者共虚偽を口にしていると?」
「はい! しかし、一つ確かなことがあります! 美星ちゃんは、誰にも殺されておりません! 彼女は以前より体が弱く、特に去年は発作なども多かったのは事実です! そして合併症による心肺停止、死因はこれで間違いございません!」
「それは、その……久城……」
「その時に久城真治はおりませんので、彼が発言したことをするのは、不可能です!」
淀みなく、真っ直ぐに答え続ける猪狩は。
「私は天音孝道と同意見の箇所があります! 久城真治と天音美星は愛し合っておりました! だからこそ久城真治は! 自分が美星ちゃんを殺した、などと……う、嘘を吐いているのです!!」
猪狩は涙を乱暴に拭って。
「久城真治が起こしたサイバー犯罪は許されるものではないというのは、私も同意です。けれど、誰も殺しておりません! 温情を、どうかお願いします! 私の証言は、以上と……なります!」
猪狩が一礼した瞬間に。
「静粛に! 静粛に!!」
天音の証言よりもまた大きなざわつきが、裁判所に起こる。
「猪狩駿、待機していなさい。続けて、宮前妙子」
「はい……」
そして最後の証人が、証言台に立った。
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