独善/3/【証人】天音孝道
「裁判長」
久城真治が閉口してから、一人の裁判官が手を挙げ発言を求める。
「発言を許可します」
「ありがとうございます。久城真治の犯した罪に関し、証人がおります。彼らの証言を許可してください」
「証言を許可します」
裁判官は頷くと。
「証人、天音孝道、猪狩俊、宮前妙子、前へ」
奥の扉から白髪の身なりの良い老人、ガタイの良い色黒の男、そして神経質そうな妙齢の女性が現れ、ゆっくりと証言台に向かう。三人の中で老人以外は椅子に座り、老人は証言台に立った。
「天音孝道、宣誓書を朗読してください」
裁判官が言うと、書記官が続けて。
「起立してください」
全員が起立したのを見計らい、天音孝道は宣誓文を読み上げた。
「宣誓……私、天音孝道は……良心に従って真実を述べ、何事も隠さず。偽りを述べないことを誓います」
宣誓が終わると同時に、また皆が席に着く。そして裁判官は偽りを述べた際のペナルティに対し天音に説明し、それに彼は頷いた。
「証人、証言を」
「はい……」
天音は目元にハンカチを当て、ゆっくりと証言を始めた。
「久城真治は、嘘を吐いております」
空気が、がらりと変わる。
「それはどういうことですか、天音氏?」
すかさず裁判官が問いただし、それに天音は答えた。
「彼は、私の孫娘を殺してはいないのです。美星は……美星は六月十五日に、合併症を起こし、亡くなりました。それを私は看取っております。これは偽りないことです」
「それは久城真治が生命維持装置を外したからそう見えたのでは?」
「いいえ、それはありません。家族が危篤の時に、保護者が近くにいないということが有り得ますでしょうか? 有り得ません。大切な人の命が、尽きてしまうかもという時に、自宅に戻って休むなど有り得ません。久城真治が話したあの時間、私は美星の病室におりました。彼女の手を握り、冷たくなっていくその感覚を、私は今でも覚えております」
「つまり彼はその時間にいなかった……と?」
「その通りです。彼は自責の念から、そのような虚実を口にしているのでしょう」
天音は自分の右手をじっと見て、ゆったりと微笑んだ。
「彼が起こしたサイバー犯罪は許されるものではないかもしれません。しかし、うちの孫娘を殺したなどと言うことは、全くの嘘です。あの子は、美星は誰にも殺されておりません。私が証言したい内容は、以上となります」
天音は一礼する。
傍聴席の人々は何事かとひそひそ話を始めるが、それをまた裁判長が諫めた。
「天音孝道、待機していなさい。続けて、猪狩俊」
「はい」
天音に続き、猪狩が今度は証言台に立った。
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