第2話 黒猫、おどろく
「失礼しました。お話の続きですが、具体的に悪戯とはどのような類のものでしょうか」
私が促すと佐々木氏は、
「その話に入る前にまずはこちらをご覧ください」
と言って鞄から一枚の紙を取り出した。一体なんだろうかと手に取るとどうやらそれは家系図のようだった。
「これは佐々木家の家譜、そのコピーになります」
「はあ」
これが一体今回の依頼と何の関係があるのだろうか、と疑問に思いながら改めて家系図を眺めてみた。今回の依頼者である佐々木林氏は佐々木家直系の七代目、その次女にあたるらしい。生年月日を見るに今年で二十歳になるようだ。彼女の佇まいというか立ち振る舞いから育ちの良さを感じる。私の三つ下とは思えないほど大人びて見える。さらにいえば長身で艶やかな長髪が羨ましい、癖毛で女性平均身長より五センチだけ低い私としては。
「何かお気づきになることはないですか、探偵さん」
髪をかき上げながら佐々木氏は言った。そのときこちらを試すかのような視線を向けたような気がした。ここは探偵として依頼者の意図を汲み取るぐらいはできなければならないのだろうが、残念ながら私はこの家系図から何も読み取ることができなかった。しかし犬山さんは家系図を手に取るなり、
「これは――」
と、何かに気付いたようだった。この辺りはやはり経験の差なのだろうか。あるいは私の観察眼が未熟なだけか。ただ見ているつもりはないのだが、やはり普通に見るということは難しい。
「犬山さん、どうしたんですか?」
「……生年月日をよく見てみろ」
私を一瞥し、ため息をつきながら先輩は言った。なんだか含みのある反応が気になったが、ここは素直に通り家系図に書かれている生年月日を見直した。
「――――あ」
確かにそこにはありえないような事実が記載されていた。どうして私はこの事実に気付かなかったのだろうか不思議なくらいだった。しかし、本当にこんなことがあるのだろうか。だってこれは――、
「どうやら気付いていただけたようですね。さすがはアニマ探偵事務所の方々です」
佐々木氏は私たちの反応を楽しんでいるみたいだった。口元こそ両手で隠してはいたがその下は緩んでいたに違いない。年相応な可愛らしい反応だと思ったが、今はそれどころではなかった。
「これは本当のことなんですか? 記録違いでは」
「いいえ。由緒正しき佐々木家の系譜です」
種明かしをするように彼女は続けて言った。
「佐々木家は代々双子の家系なのです」
そう。改めて家系図を見直して判明した事実。それは七代にわたる佐々木家。そのすべての代に双子が生まれているということだった。
黒猫探偵 Rain坊 @rainbou
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