第32話 何故扉が開くたびに部屋は変わっていたのか?
「う……ううん?」
目を開ける。眩しい光が飛び込んできて、すぐに閉じる。今度は真っ暗。何も見えない。ここはどこだっけ?
恐る恐る再び開けてみる。今度は大丈夫だ。周りの景色がぼんやりと見えてくる。壁に寄り掛かり、座り込んでいた。
「そうだ、思い出した。確か音楽を流していて……」
先程までの出来事を朧げに思い出す。僕は八つのスイッチを押して音楽を流していた。その理由はモニターに表示された『CAGED』を完成させるため。そして完成させた筈なんだけど。
「何か、起こったのかな?」
部屋を改めて見回す。完成前の部屋の様子と変わった所はない。肩を落とす。あの努力は一体何だったのか……。落胆しながら試しに扉を開けてみた。
それはあっけなく開いた。
「えっ!?」
驚いた。とりあえずホッとする。扉の先には一直線の廊下。しんと静まり返っている。部屋を後にして廊下を歩く。その先にはCの扉。
「ここは開かないか」
ブザーが鳴ってないからこの扉は開かない。けれど、いつか開くはずだ。微かな期待を胸に先程の部屋に戻る。
ういいいいぃぃぃぃぃぃぃん。
部屋で待機中、例の音が鳴った。
「咲岡さああああああああん! いますかあああああ!?」
響き渡る悲鳴のような声。その声を聞いた瞬間、思わず笑みが浮かんだ。それは部屋の謎を解いたご褒美に他ならない。扉を開ける。一直線の廊下の先。Cの扉。今、それが開いていてその先に一人の少女が手を振っている。美輪ちゃんだ!
「美輪ちゃんっ!」
僕は扉を閉めることも忘れ、廊下を駆ける。自分でもびっくりするくらい足が軽い。懐かしの書斎で彼女、多方美輪ちゃんと再会した。
「美輪ちゃ……」
「もうっ! 咲岡さんの嘘つき! 戻ってくるって約束したじゃないですか!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕だって戻るつもりだったさ。だけど扉が閉まって出られなくなったんだよ!」
「ほ、本当ですか? 私が入った時はそんなことなかったですけど」
「美輪ちゃんはただ覗いただけじゃん」
「あっ、そうでした」
僕らは声を揃えて笑った。何だかこのやり取りも懐かしい。
「そういえば土門は……? まだ再会できてないの?」
「…………」
僕が土門の名を口にした瞬間、美輪ちゃんから笑みが消えた。まるで無表情の仮面を被ったみたいな一瞬の変化だった。冷たい汗が背中を伝うのを感じる。
「咲岡さん……」
彼女の言葉を待つ。気づくと口の中が唾液で一杯だった。それをごくりと飲み込む。食道を通って胃に落ちるのがわかる。続けて深呼吸をする。
その後、美輪ちゃんは嗚咽を交えながら語った。
まず、Bの扉の先で見たことについて。
その先で土門の死体を見つけたらしい。廊下にうつ伏せに倒れていて、口から血を吐いていたという。彼女には自殺したように見えたらしく、その理由は外傷が全くないこと、さらに争った形跡もないこと。
次にAの扉の先の仕掛けについて。
Aの扉の先には、僕も一度入った食堂があったという。そこにある『不動明王』が描かれた丸い窪みに、仏像の間で『不動三尊』を完成させて(す、凄い……)、手に入れた仏像のメダルを嵌めたらしい。結果、ガラスケースが開いて武骨な鍵を入手。その後、鍵のついた宝石箱を見つけ、試しに先程入手した鍵を使用、これがなんと開いて、中には黄色のカードが入っていたという。そしてCの扉が開いて、僕と再会したということ。
「そんな……土門が?」
僕は信じられなかった。あの土門が自殺などする訳がない。みんなでここを脱出するために行動していたのに、なんで……?
「あ、あと咲岡さんと再会する前に開いたCの扉の先、鍵がかかって開かなかった部屋、ありましたよね?」
「うん、開かずの間だね」
「寝室で見つけた鍵で開きました。その部屋で、これを……」
そう言って彼女は青いカードを差し出した。黄色のカードと青いカード。これは何か手がかりになりそうだ。青いカードを受け取り、折り曲げてみる。適度な弾力が手に伝わる。手触りはテレフォンカードに似ている。
「これ、カードキーかも」
青と黄色のカードキー。ということはどこかにカードリーダーがある筈だけど……。
「これも見てもらえますか?」
彼女が次に差し出したのは一枚の書類。
受け取ると三つの四角が団子状に繋がったような図が中央に書かれている。
どうやら設計図のようだ。About【The Tower】 Form : Inverted Cone and 3 Layers Constructions.…………The Connecting Area(m2) : Upper Layer : 10, Middle Layer : 6, Under Layer : 2.…………The Time Until The Door Opens And Closes : About 10 Minutes.……
など聞き慣れない英単語や面倒な英文が端の方に書かれているが、とりあえず図を見ることにする。
仮に上の四角を①、中央を②、下を③とする。
記号①の四つの辺の内、②と接していない辺、つまり上を北とすると南以外の三辺、ここに細長い長方形がくっついて書かれている。三辺のそれぞれ中心と長方形の短い辺の中心が一致していて、辺の長さは四角の方が長い。
記号③にも同じように長方形が書かれている。こちらは①を一八○度回転させたものと一緒だ。こうして上下の四角団子に三本の角が生えたような図が完成する。
書類にはまだ書かれていることがある。
それぞれの角の先、そこに再び四角が書かれている。角の先にある四角は六つ。
「私、考えてみたんですけど、今、この書斎には扉が四つあります。一つは私たちが目覚めた部屋に繋がっていて、残る三つは順番に開いていきますよね?」彼女は続ける。「部屋は開く度に変わっている。今まで私たちが見つけた部屋は……」
そう言って彼女は紙に文字を走らせる。綺麗な字がどんどん生まれていく。
Aの扉→仏像の間。食堂。
Bの扉→寝室×二
Cの扉→開かずの間。咲岡さんが閉じ込められた部屋(音楽ルーム?)。
「確か……二回目にBの扉が開いた時でした。寝室に入って、私たち口論しましたよね」
「うん、したね」
「あの部屋って、多分一回目に開いた寝室とは違う寝室だったと思います」
「どうしてかな? 確かに僕は電気なんて消した覚えはないけど」
「はい。咲岡さんが正しいんです。だって、そうすれば部屋の合計は六つになりますから」
彼女はメモに書き加える。
Aの扉→仏像の間。食堂。
Bの扉→寝室×二①。寝室×二②。寝室は一フロアにつき二つあった。
Cの扉→開かずの間。咲岡さんが閉じ込められた部屋(音楽ルーム?)。
「本当だ……六つだ」
「この六つの部屋は、この書類で言うと長方形の先にある四角だと思います」
六つの角の先、そこには六つの四角。
「うん……」
背中がぞわぞわする。
「なぜ開く度に部屋は変わっていたのか、咲岡さんはわかりますか?」
「えっと、つまり」まさか――。
「私はこう考えます。部屋は扉が閉まる度に回転していた。一つずつ扉が開いた理由は簡単です。そうしないと部屋が回転していることがバレバレだから。如何ですか咲岡さん?」
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