第29話 曲名『細胞分裂五分間の季節』

 曲名『細胞分裂五分間の季節』。


 曲の開始と同時に駆け出したのは澄んだベース音。一定のリズムを刻みながら疾走する。それを聴きながら思ったことがある。今回と、今までに流れた曲名に必ず入っている数字を示す単語。今回なら『五分間』。最初のパーティソングなら『スリーミニッツ』。これはその曲が流れる時間を示しているのではないか。そう思うと、前々回に流れた『一分でいいからどうか最果ての地まで』はかなり短かった。これは一分間の曲だったのではないか……。


 思考はそこで中断された。疾走するベース音に仲間が加わったからだ。それはギターで、躍動感たっぷりに軽快な音を奏でる。


 チャチャッチャチャッチャ

 チャチャッチャチャッチャ

 チャチャッチャチャッチャ


 まるでタイトルの『細胞分裂』を表現しているかのようで。


 音が分裂して音が生まれ、また音が分裂して……。


 五分間で一体細胞はいくつまで増えるのだろうか。


 それはまるで四季のようで。


 始まりの春。

 成長の夏。

 変化の秋。

 辛抱の冬。


『生きて。生きろ!』


 それはさっきの声で。どこかから聞こえてきた魂の叫びで。


 曲はさらに疾走感を増していき、僕の内心なんて無視していき。それは『情熱』のリズム。魂の叫びと『情熱』のリズムがどんどん分裂していく。


 分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し、分裂を繰り返し。やがて部屋の中が魂の叫びと『情熱』のリズムで満たされる。繰り返される四季を経験した細胞たちはいくつかが死に、いくつかが生き残った。生き残ったそれらは未来へとバトンを繋ぐため死ぬまで分裂を繰り返す。ただ一つの意志を伝えるために。


『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』『生きて。生きろ!』


『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。『情熱』のリズム。


 そして二つは互いに合わさっていく。


 それはまるで、あらかじめ決められていた出会いのようで。分裂した細胞たちははじめより巨大に、逞しく、生命のリズムを刻んでいく。それは僕に生きる勇気を与えた。


 情熱のダンス。細胞たちの狂乱。咲き乱れる花の如く、強く清らかに。


 いつの間にか加わったボーカルはひどく倦怠感にまみれていて。かすれ気味の声がこだまして、情熱を体現していく。それはもう、言葉にならない程美しかった。やがて曲が終息して、モニターに『E』が表示されても僕は動けずにいた。はあはあと肩で息をして、油断していると口から涎が一筋垂れそうだ。あまりにも巨大な音の力。シンクロし過ぎた僕の気持ちは高ぶって、今なら何でも出来そうだ。


「美輪ちゃん……待っててね」


 そう呟いて、最後の『D』を完成させるべく、②のスイッチを押した。

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