第27話 曲名『一分でいいからどうか最果ての地まで』

 僕は武骨なギターと繊細なピアノが鳴り止んだ後、すぐに①のスイッチを押した。


 ツッツーッツー

 ツッツーッツー

 ツッツーッツー


 もう三度目のパーティソング。お決まりの『ハイになろうぜ!』の言葉に僕はそこまでハイにならなかった。気持ちは高ぶっている。でもワイワイ騒ぐような高ぶりじゃない。内に秘めた高揚感とでも言えばいいのだろうか。心臓がさっきからドクドクとうるさい。呼吸も速くなる。


 次で必ず完成させる。きっと上手くいく。そう思うと益々呼吸は加速していく。


 パーティソング、フェードアウト。モニターに『C』。


 そして間髪入れず、僕は⑥のスイッチを押した。先程は⑦のスイッチを押した。結果は『B』。ならば……⑥が『A』であると思った。理由はわからないが、①から⑤までアルファベット順(何故か開始が『A』ではなく『C』だけど)、そして⑦が『B』、残るは⑥と⑧……どっちかは確実に『A』。


「頼む……」祈るような気持ちでスピーカーが震えるのを待つ。


 チュリルリ、チュリルリ

 チュリルリ、チュリルリ

 チュリルリ、チュリルリ


 やがてスピーカーから聴こえてきたのは、そんな特徴的なギターソロ。まるで群れからはぐれた孤高の狼のような、それは力強さがにじみ出ていて。


 そこに合わさってきたのはドラム。何だか中身がない叩き方だった。タッ、タッ、タッと空気が通るような無味簡素な音。


 モニターに曲名が表示された。『一分でいいからどうか最果ての地まで』。


 そしてその曲は、すぐにフェードアウトした。今まで流れた曲の中で最短だった。最果ての地から流れた音楽は心地よい余韻をもたらした。僕はモニターに釘付けになる。気になるアルファベットは?


『A』。


「よっし!」胸の前でガッツポーズ。よしっ、いけるぞ! もう少しでここを出られるぞ!


 これで、スイッチとアルファベットの関係がわかった気がする。まだ押していないスイッチもあるが、まとめてみる。


 ①のスイッチ。アルファベット『C』。曲名『スリー・ミニッツ・ナイト』。


 ②のスイッチ。アルファベット『D』。曲名『洗礼 第四の流れ星』。


 ③のスイッチ。アルファベット『E』? 曲名不明。


 ④のスイッチ。アルファベット『F』? 曲名不明。


 ⑤のスイッチ。アルファベット『G』? 曲名不明。


 ⑥のスイッチ。アルファベット『A』。曲名『一分でいいからどうか最果ての地まで』。


 ⑦のスイッチ。アルファベット『B』。曲名『二分間の欲望』。


 ⑧のスイッチ。アルファベット『C』? 曲名不明。


 こんな感じだ。ここで問題なのは、『C』が二つ存在する点。最後の⑧は『C』ではないのだろうか? こればっかりは押してみるしかない……。しかし、それを確かめるよりも、確実に『G』を押す方が優先だ。


『G』は恐らく、僕の予想では⑤のスイッチ。果たして……。


 僕は一回深呼吸して⑤のスイッチを押した。ここで僕は気づく。完全密室と化したこの部屋。出られないという恐怖感。僕の気持ちをかき乱す音楽たち。とめどなく流れてくるイメージ。寄せては返す波のように、少しずつ……スコシズツ……ほんのちょっとずつ……しかし確実に僕の理性を削り取ってイク。


 間もなく流れてきた曲はこれまでにない、いや、これまでの曲たちが一斉に爆ぜたみたいな曲で。身体のありとあらゆるところを刺激するそれは衝撃で。僕の内面の防波堤を易々と超えてきたそれは大きな流れで。宇宙の始まり、ビックバンの煌めきが心を満たしていくそれは神秘で。僕には受け止めきれないそれは大きなエネルギーの塊だった。

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