第25話 曲名『洗礼 第四の流れ星』

 ②のスイッチ。

 曲名『洗礼 第四の流れ星』。


 開始はとにかく静かだった。はるか昔、何も存在しなかった時代。無が広がっていた時代。そこから微かな光が生まれたように、その音は暗い海の底から這いあがるようにスピーカーを震わせた。今にも消え入りそうなほど小さく、それでいて真っ直ぐとブレずに突き進む強さを持っている。


 チャーッチャチャチャ

 チャーッチャチャチャ

 チャーッチャチャチャ


 そして、ある程度広がりをもった世界に、その儚い声音のボーカルが重なる。


「……ああ」


 思わず声が漏れる。


 先程のパーティ会場に向かうボーカルはここにはいない。


 ただ絶望して。ただ悲観して。自問自答して。儚く散る花のようなボーカルだった。


 それに寄り添うようにして、渋めのギターとベースが優しく掛け合う。深く、深く、胸に染み入る音。


『お前もそう思うだろ?』


 何だか、そう言われている気がした。

 そう思ったのを最後にボーカルが途切れる。


 タカタカタカタカ

 タカタカタカタカ

 タカタカタカタカ


 世界が変容する。リズムが乱れる。宇宙のありとあらゆる法則が乱れる。リンゴが空に落ちる。音が見えない刃となって、心の奥を深く傷つける。そこには優しさがあった。


Getゲット baptizedバプタイズドゥ.


 Loseルーズ yourユア solemnソレムン selfesteemセルフェスティム.


 Ifイフ the fourthフォース shootingstarシューティングスター flowフロウ the nightskyナイトスカイ,


 Youユー willウィル beビー lovedラブドゥ withウィズ comedownカムダウン angelエンジェル.』


 聞こえてくる言葉。

 それはしかし、僕の頭で日本語に変換されない。ただ一つ言えることは、先程みたいに『ハイになろうぜ!』なんていう陽気さは皆無だということのみ。


 やがて音は終息していった。曲が終わった時、僕の中で『第四の流れ星』が流れた気がした。


「第四の流れ星か……」


 さっきは『スリーミニッツナイト』。スリーミニッツ……三分、か。


 今回は『洗礼 第四の流れ星』。第四……四つ目の流れ星。


「…………?」


 モニターの『C』の横に、新たな一文字が……。


 C D


『D』の一文字……。直後。


 Error Error Error Error Error Error!


「エラー?」


 間違えた? 一体何を?

 モニターには再び『CAGED』の五文字。


「……そうか、Cの次はA……つまり」


 ブーーーーーーーーブーーーーーーーーブーーーーーーーー。


「ま、まずい! とにかく戻らないと!」


 美輪ちゃんと約束したから。


 僕は部屋を出るために扉を開けようとした。


「……あれ?」


 開かない。開かない!


「美輪ちゃああん!」


 叫ぶ。ノブを強くひねる。しかし開かない!


 くそっ! 開けよ! 開けよおおおお!


 間もなくして、美輪ちゃんだろうか、ヒステリックに叫ぶ声が聞こえる。言葉は聞こえない。怒鳴りつけるような、声音に焦りの感情が混ざったかと思うと……。


 再び静寂。


 もう、Cの扉は閉まったのだろう。僕は取り残されてしまった。


 ふと、モニターを見る。


『CAGED』の文字。ああ、そうか。ケージはCAGE。これにDがくっついて、形容詞的になる。つまり――。


「…………取り囲まれた」


 さながら僕は、鳥籠に捕らわれた小鳥だ。

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