第17話 既視感あるいは違和感

 ここはどこだ?」


 足を踏み入れた場所は、書斎によく似た全く別の部屋だった。書斎と間取りは同じだが、書斎ではない部屋。


 四方の壁に扉。正面の扉だけ、武骨な金属製。それ以外は他と同じ、ノブがないタイプの扉。今、背後の扉のみ開いている。


 その武骨な金属製の扉は、まるで行く手を阻む番人のように佇んでいた。すぐ横の壁に三つの赤いランプが横一列に等間隔で並んでいる。それらのすぐ下に何かを差し込むような隙間があった。パッと見た限り、カードリーダーにしか見えないが、果たして……。


「まさか……まさかな」


 ポケットから赤いカードキーを取り出し、その隙間に入れてみた。


「……うおっ!」


 赤いそれは、さも当たり前のように隙間に吸い込まれた。


 直後、ピピッという音がしてすぐ上の赤いランプが、緑色のランプに変わった。それはまさしく希望の光。


「よっっしゃあああ! 出れるぞ! ここから!」


 思わず叫ぶ。反響する己の声。


 あと二つのカードキーを見つければここから出られるのかもしれない。


 部屋を一瞥して扉以外に何もないことを確認した後、背後で開かれているBの扉から廊下に移動してまだ調べていない部屋を調べた。


 扉は難なく俺の入室を認めた。中は先程まで拘束されていた寝室にそっくりだった。シングルベッドが二つ。皺ひとつないシーツ。匂いはなし。強いて言えばクリーニングの匂いのみ。使われた形跡は皆無。隅々まで調べてみたが、カードキーはなかった。


 ブーーーーーーーーブーーーーーーーーブーーーーーーーー。


 その時、お馴染みの音が響いた。


 俺は急いでBの扉を通過する。もう慣れたので慌てることもなく、余裕があった。やがてBの扉は閉じた。この後、いつものルーティンに従うなら……。


「Aの扉が開く筈……」


 果たしてどっちの扉が開くのか。右か、左か。


 やがて。


 ういいいいぃぃぃぃぃぃぃん。


 さっき開いたBの扉を背に、武骨な金属製の扉を正面に見て立ったとき、左手に見える扉が開いた。


 その先に一体何があるのか。カードキーはあるのか。俺は開かれた扉を通過した。


 目の前には真っ直ぐ廊下が続いている。Bの扉の先のように。


 廊下の途中、左右に一つずつ向かい合うようにして扉がある。Bの扉の先のように。


「…………」


 俺は試しに右の扉を開けてみた。扉には鍵がかかっていない。Bの扉の先のように。


 部屋の中を覗いてみる。シングルベッドが二つ。Bの扉の先のように。


 それらの間に三段タイプのラック。Bの扉の先のように。


 その一番上に木箱。Bの扉の先のように。


 その横には解かれた手錠。Bの扉の先のように。


「ふはは」


 もう一つの扉の先。Bの扉の先のように。


 シングルベッドが二つ。Bの扉の先のように。


 皺ひとつないシーツ。Bの扉の先のように。


 Bの扉の先のように。

 Bの扉の先のように。

 Bの扉の先のように。

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