第13話 パスワードってなに?

 現れた液晶画面を見つめる。画面は真っ暗。それは鏡のように僕の顔を映すけど、歪んでいてまるで能面のよう。自分じゃない自分がじっとこちらを見つめていて気味が悪い。それでもようやくスタートラインに立った感覚がする。気持ちはどんより曇り空だけど、雲の切れ目から日の光が差し込むことを願い、いざスタートを切ることにする。


 試しに画面を触ってみる。すると……変化が。


 Please write the password.


「パスワードを書いてください?」


 美輪ちゃんが和訳する。画面はすぐに変わり、また暗くなる。だけど先程みたいに真っ暗ではない。画面の中央やや下にアンダーバーが点滅している。


「ここにパスワードを書けってことか」


「咲岡さん、パスワードを教えてください」


 単刀直入、美輪ちゃんが人差し指を画面に向けて書く態勢万全をアピール。しかし、パスワードと言われても……。


「確か二六ページにさ……」


「二六ページ? ……あっ、例のアルファベットですね!」


 ういいいいぃぃぃぃぃぃぃん。


 その時。恒例の音がした。開かれたのは……Cの扉。


「開いたね。確かこの先は……」


「えっと、さっきは鍵がかかった扉がありましたが……」と美輪ちゃん。「変わってますよね。きっと」


 僕は曖昧に頷く。断言など出来ない。だけど、その可能性が極めて高い。


「あっ、なら! 私が行ってきますよ! さっきと同じ部屋ならすぐに戻ってきます」


「わかった。もしさっきと違う部屋だったらどうする? そのまま探索してくれる?」


「うっ……うーん」彼女は少し考え込んでから続ける。「わ、わかりました。でもその代わり、向こうの部屋から見える位置にいて下さい!」


 その後、仕方なくわがままを聞いてあげることにしたが、どうやら先程の部屋ではなかったらしく、扉を開けて中を覗いた彼女はすぐに戻ってきた。


 覗いた先には小部屋があって、さらに奥に繋がる扉があったという。


「すいません、私……」


 泣き出しそうな表情を浮かべたので慌ててフォローする。


「いいよ。僕が行ってくる。美輪ちゃんはさっきのパスワード考えてみて」


 液晶画面付きの例の本を渡して、Cの扉に向かう。


「咲岡さん! 必ず、必ず戻ってきて下さいね」


「うん、わかってるよ」


 短くそう言って扉に向かった。


 Cの扉の奥。直線の廊下を進み、扉を開ける。


 彼女が言っていた小部屋だ。何もなく、殺風景な部屋。壁は白く塗られ、裸電球が辺りを照らす。物は何も置かれていない。入ってきた扉――今、開けっ放しだ――の正面に、扉。


 そこを開けてみる。開けた扉の隙間から薄い闇が漏れてくる。よく目を凝らしてみると、奥の壁にスピーカーが二つ(何故スピーカーが?)。そして、薄闇の中央。そこには……何だあれ? 僕は扉を開けて薄闇の部屋中央のオブジェに近づく……。


 その刹那。


 バタンッ! 扉が閉まって辺りは闇に包まれる。


「うわっ! えっ!」


 思わず連続で驚いてしまった。


 第一の驚きの理由。背後で扉が閉まり、その音にびっくりしたから。


 第二の驚きの理由。中央のオブジェが仄かに発光したから。

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