第6話 新たな謎と開かずの間

 ブザーがけたたましく鳴り響いた。


 土門の叫び声が聞こえた瞬間、僕は素早く扉を開けていた。廊下に出た時、先程の記憶がフラッシュバックする。上から迫る扉。それはまるで死神。確実に死をもたらす黒い存在。僕はその恐怖に膝が震えた。


「早くしろおおおおおおお!」


 扉を開けて数メートル先、Aの扉。その先の書斎、そこに土門。片膝をつき声を荒げる。幸い、まだ閉じ始めた直後なので半分以上余裕がある。


「よしっ、行こう美輪ちゃん! 走れる?」


「はいっ!」


 僕たちは駆け出した。笑う膝に対してくすりとも笑えない状況。目に見えない恐怖が、すぐ後ろにいる感覚。


 先程の走りで慣れたみたいで足取りは軽かった。すぐに扉の下をくぐり、書斎に避難することができた。続いて美輪ちゃんもゴール。


 間もなくしてAの扉は完全に閉まった。


「なんだ、二人とも余裕だったな」土門は掠れた声で言う。まさか、今のシャウトで喉を痛めたのか。しきりに咳払いをしている。水でもあれば勧めるのだが……。


 その後、喉を休めた土門が開口一番に訊いてきた。


「……で、扉の先には何があった?」


「えっと……」


 僕は扉の先に広がっていた光景を土門に伝えた。ブザーが鳴る前、美輪ちゃんが話していたことも伝えようとした所で彼女が割って入る。


「あ、咲岡さん。そこは私から……」


 美輪ちゃんが口を開く。土門は腕を組み、黙って彼女の話を聞いていた。


「…………つまり、その仏像の配置を正しいものにする必要があると?」


「そうだと思います。それが何のためかは分かりませんが、ここを出る手がかりになるかもしれません」


「でも、仏像だろ? 簡単に動かせるとも思えないしなあ」


 簡単に動かせない……確かに、あれを動かすとなるとかなりの重労働だ。何か道具がないと……。


「あ……」そこで思い出した。二人の視線が突然僕に向けられる。「キャスター」


「キャスター? お天気お姉さんのことか?」


「違うわ!」自分でも驚く鋭いツッコミ。


「あの仏像、土台の下にキャスターがついてた!」


「ホントですか咲岡さん!?」


「うん! つまり、あの部屋の中に紛れている二つの像を見つけて、本来の『不動三尊』を再現すれば……」


「何かが起こる……?」


「うむ、大収穫だな。Aの扉が開くのが待ち遠しい」


 とにかく、もう一度あの部屋に行くしかない。そのためにもAの扉が再び開く必要がある。扉は一度しか開かないのかもしれない。そうだったら万事休すだ。打つ手なし。そこは祈るしかない。


 前々回はBの扉――先には寝室と調べていない扉が一つ。


 前回はAの扉――先には仏像の間。『不動三尊』の謎。


 この流れから判断すると、次はきっと……。僕はCの扉を見つめる。


 ういいいいぃぃぃぃぃぃぃん。


 しばらくして、僕の視線にCの扉が応えたかのようなタイミングでそれが天井に向かってスライドしていく……。これで三つ全ての扉が開いたことになる。果たして、最後の扉の先には何が待っているのか……。一縷の不安と微かな期待をもって僕は歩を進めた。


 今回は美輪ちゃんが書斎で待機して知らせる役。扉は開けたままにしておいて、僕と土門で部屋を調べることになった。土門が今回は探索組に加わりたいと言ったので、美輪ちゃんの考えを尊重し、こうなった。


 Cの扉の先には廊下が直線に伸びていた。Bの扉の先と一緒だ。


「…………」

「…………」


 土門が扉を開けようとノブを捻った……。


「……? ねえ土門さん、早く開けて下さいよ」


「開かない」


「ええ?」


「……扉が開かない。鍵がかかってる」


 さては土門、と思って代わりにノブを捻ってみる。しかし結果は同じ。


「文也君……そんなに信用ならんかね?」


 彼の茶化した口調に、笑いをせき止めていたダムが一瞬決壊し、鼻で笑ってしまった。

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