第5話 不動明王と不動三尊

「ちょっと待て。部屋に入る前に話しておきたいことがある」


 廊下の先にある扉を前にして土門は振り返った。彼の背を追っていた僕ら二人の足が止まる。珍しく真剣な表情。何を言うのかと待つこと数秒、口火を切ったのは痺れを切らした美輪ちゃん。


「何ですか? 土門さん」


「うむ、恐らくだがさっき開いたAの扉も時間が経つと閉まるようになっている。Bの扉がそうだったように」


 確かに、Aの扉が開いたままということは考えにくい。閉まるタイミングが分かればいいが、時間を計れるものは所持していない。それに、時間が来て閉まるというのも憶測でしかなく、例えば何かの行動がきっかけで閉まるという可能性もある。


「そこで提案なんだが、扉が閉まり始めたらすぐに大声で知らせる役をつくろうと思うのだがどうだろう? 当人は書斎で待機し、扉が閉まりだしたら大声で知らせ、残り二人の避難をサポートする」と土門。「美輪ちゃんはか弱いから男二人のサポートはきついだろう。だからこの役は俺か文也君が適任だと思う。どっちかが書斎で待ち、どっちかが美輪ちゃんと一緒にこの扉の先を探索する。どうかな? 文也君」


 言い終えるや、すぐに美輪ちゃんが挙手。


「はいっ! 私、土門さんと二人きりになりたくないです!」


「ぐはっ! 単刀直入! ド直球だなおい!」


 こうして僕と美輪ちゃんは、心底落ち込んだ土門を置いて扉の先を探索することにした。


「……咲岡さん。これ、なんて読むんですか?」


「ええっと、やくし……やくし……」


「薬師如来(やくしにょらい)ですよ」


「ああ、なんか聞いたことあるな……ってもしかして知ってた?」


 ふふっと小さく笑う美輪ちゃん。言い返す言葉が見つからず僕は入った部屋を見渡す。


 ここは仏像の間。


 わずかな光に照らされた中、部屋の中央に大きな像が一体、名を薬師如来立像やくしにょらいりつぞう。展示台を含めると、全長は四メートル(説明文より像が全長三メートル、展示台が約一メートル)。神々しい立ち姿に圧倒され、その目は何でも見透かす力を備えているかのよう。部屋に入った瞬間、そんな感覚を覚えたのも、この像の目のせいかもしれない。

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