第7話 [二重の魔法] 前編

レイが言った。


「これは、始業のチャイムだ」


本当なら、このチャイムの後には掃除の時間になる。僕は教室の担当だが、もし遅れでもしたら大変なことになる。


靴に泥を詰める程度では済まないだろう、靴が口に変わるかもしれない。


時間を気にして聞いてしまう、

「ねえ、レイさん、今気づいたんだけどあの時計進んでないよね」


みんなの視線が観覧車の大時計に集まる。


口々に、あ。ほんとだ、と聞こえてくる。


こんなおかしな所に飛ばされてるのだから、今さら時間を止めていると言われても驚きはしないだろう。


そんな、軽い気持ちで聞いたが、予想外の答えが返ってきた。


「なんだ?ここで過ごした時間はあちらではノーカウントだとか、そんなファンタジーな事でも考えてたか?」


なんだと。


「え!それは困るよ、あっちに返してよ!」

「同じ清掃場所の人に聞かれたら、なんて答えればいいの?!」


みんなが動揺を隠せていない。


やっぱり、心のどこかで時間は止まっててほしいという感情があった。だって…


「じゃあ…あっちの俺たちは、今どうなってるんだ?」


氷川君の一言にその場が静まりかえる。


レイが答える。


「安心しろ、君らが心配するようなことは何1つ起こらない。つい先ほど、あちらの世界で[二重の魔法]を行使した、君たち8人と私のみを除いてな。」


「ということは…僕ら9人以外の人たちには、僕らが真面目に掃除してることになってるってこと?」


天文部の月君だ。おっとりした顔をしているが、こういう時はするどい。


レイが頷く。


「そうだ、だんだんと分かってきただろう。この魔法は、君たちがあちらにいない時、またはそこに居たと思わせたい時など様々な用途で行使される。あちらの世界では、ただの1人も、魔法に関係する人間だと知られてはならない。これは、初日にも注意してあるはずだ。」


そうだった、確かに初日に言われている。


ーこのことを無関係の他人に口外する事は、固く禁じられているー


だったか。


今村さんが尋ねる、


「ねえ、もし…もしなんだけどさ、誰かにこのことを知られた場合どうかなるの?というか、判断基準とか教えてよ。魔法を見られたとしても、そう簡単に信じる人なんていないでしょ。」


レイが答える


「判断基準は簡単だ。気づいてしまう人たちがいる」


「気づいてしまう?」


「そうだ」




すこし間をおいて、レイが、静かに言った。



「やつらに気づかれたら、終わりだと思え」



みんなの顔が引きつるのが、否応もなく分かった。









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