第8話 [二重の魔法] 中編

「やつらに気づかれたら、終わりだと思え。」


レイの言い放ったその一言は、僕たち8人を凍りつかせるには十分だった。


「あの…終わりって?」


月君がおずおずと尋ねる。


「そのままの意味だ。君らの人生は、そこで終わる」


レイの声が、いつもよりひどく冷たく感じる。


うそ…と言う声が聞こえてきた。


いつもなら、きっとすぐには信じなかっただろうが、もうみんなレイの言うことは信じるようになっている。


いちいち疑っていても、話の進みを妨げるだけだからだ。


「冗談じゃないんだけど」


水見さんだ、この人は他人の気持ちとかを考えてそうにないあたり、レイと似ているかもしれない。


そういえば、この人は部活はしてないのだろうか。

帰宅部は僕と中村さんだけかと思っていたが、よく考えてみればこの人も、部活について何も言っていない。


「じゃあ、降りても構わない」


えっ、とその場の全員がレイを見た。



「やめれるの?」

今村さんが聞く。


「ああ」


やめることができる…そういうものなのか。


「私…やらないよこんなの。人生終わるとか物騒なこと。」


水見が言った。


みんなも同じことを考えているらしい、レイの反応を待っている。


「そうか。だが、本当にいいのか。」


「は?」


水見さんが怪訝な表情をした。


レイが悲しそうに続ける。


「ここから出たとして、君の帰る場所はどんなものか、冷静になって考えろということだ」


「…脅してんの?」


空気がピリっとした。


帰る場所…


例えば僕には、優しい家族がいる。


しかし、その家族に会うには、泥の詰め込まれた靴を履かなくてはならない。


水見さんも、もしかしたら何かあるのかもしれない。


彼女はもうなにも話さなくなり、うつむいてしまっている。


レイがつづける。


「それに、君たちはもう魔法を使える状態になっているはずだ。今日までにこの本を読むように言っていたのはそれだ。」


あ、あれか。


図書館の机と机の間を意味もなくグルグルと歩かされたやつか。


「あれは、君たちの中に、魔法の源となるエネルギーをため込む器を形成するためのものだ。もう、各々やっただろう?」


誰も何も言わない。みんな、あのグルグルをやったらしい。


「あの段階での君たちの器はもちろん空っぽだ。そして今日、君たちはここへ来た。この、空気中を漂っているホコリのようなもの、見えるか?」


宙を漂っていたホコリは、いつのまにか薄くなっている気がする。床にたまりでもしたのだろうか。



「これは…魔法のエネルギーそのものだ。この空間にはこれが大量に漂っていて、君たちがここへ来るたびに、器の中へとエネルギーが勝手に蓄積していく。」


氷川君がお腹をさわっている。


いや、たまると言っても、そこかどうかはわからないだろ。


それにしても、このホコリがそんな大層なものだったとは驚きだ。


「そして…これは、あちらの世界にはないものだ。だからこそ…やつらに、気づかれる。」



みんなの顔がまた引きつる。


そうか、だからこそ…



「[二重の魔法]、覚えてもらう」


レイがピシャリと言うと、みんなは諦めたように、うなった。


先程のレイの、やめてもいい、と言う言葉。


あれは、「やめてもいいが、このままやめればすぐに見つかる」が真意といったところだろうか。


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