第4話 不思議な部屋

学校の正門をくぐり、靴箱へと向かう。


今日は…


靴箱の中に置いてあったシューズに、泥が詰められていた。


いつのも事だ、慣れている。


でも…やっぱり涙がにじむ。

すると、横からクスクスと笑う声が聞こえた。


「うっわぁ、泣いてるー」

「テルちゃん泣いてるよー、かわいそー」


この仕掛けをした人なのかは分からないが、

笑う人も、見て見ぬ振りをする人も、同罪だ。


いや、見て見ぬ振りは仕方ないか。


1限、英語

2限、数学

3限、体育

4限、情報科学


4つの授業をで受け切り、昼休みのチャイムが鳴った。


いつもは、教室にいても絡まれるだけなので仕方なく図書館に逃げているが、今日は違う。


今日は、用事があって行くのだから。




階段をのぼり、図書館へと向かいながら考えた。


このクソみたいな毎日が、これから変わるのだろうか。クソみたいになった原因さえ、まだ分かっていないのだけれど。


図書館の扉をキィッと開けると、いつもはがらんとしているカウンターから1番離れたテーブルに、7人の生徒が座っていた。


「あ、きたきた!」


どうやら、僕の話でもしていたらしい。

7組の中村奈々が、周りの人に僕の紹介を始めた。


自己紹介くらい、自分で出来るというのに。


どうやら、全員集まっているらしい。

高校の昼休みに、全然違うクラスの人が8人も集まるという異様な風景だ。


「ねえ。」

茶髪の、色の白い男子が口を開いた。

「みんな、この本持ってるの?」


手に、『逃亡』を持っている。


よくよく見てみると、みんな机の上にその本を置いている。


僕のと唯一違うところといえば、タイトルの横に書かれた名前くらいか。


「持ってるよ」

「おれも」

「うん、ほら」


皆が手にその本を持って見せた。


その瞬間体がふわっと軽くなり、窓から差し込む光が図書館を包んだ。


気がつくとそこは、一昨日訪れた不思議な部屋だった。


そのとき、後ろからいきなり声がした。


「やっとか。さっさと本に触れろよ、1日1回しか連れてこれないんだから。」


びっくりして振り返ると、あの小さな女の子がいた。


彼女がつづける。


「よく来てくれた。毎回こんな風に8人全員が参加することを期待する。今日は5月2日水曜日、初日だから、ガイダンスといこう。」


ガイダンス?何を言っているんだ?


「私のことは好きな名前で呼んでくれ。それと君たち、昨日の爆音聞いたか?」


連れてこられた組がわっと声をあげた。


「聞いた聞いた!」

「すごかった!」

「鼓膜破れたかと思った」


そういえば、この人たちの名前もまだ聞いていないな。


あの後も、爆音についてのニュースは流れ続けていた。今朝のニュースでも言っていたし、まだ原因も分かっていないらしい。


みんなが口々に騒いでいるのを見ながら、

女の子が話をつづけた。


「あの爆音を鳴らしたのは、私だ」


え?


その場の空気が固まったのが分かる。


さっきの色白の男の子が聞いた。

「あの音を、君が?どうやって?」


女の子がニヤッと笑った。



「君たちは…ここで、それを学ぶんだ」




観覧車の形をした時計が、昼休みの終わりを告げていた。

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