第2話 クラス
昨日の出来事は何だったのだろう。
神山輝樹は、2限の国語の授業そっちのけで考え込んでいた。
司書の先生に勧められて読んだ本、『逃亡』。
その本を開くと、僕は見知らぬ場所にいた。
そして、その場には、長い赤毛をたなびかせた中学生くらいの女の子がいた。
見た目と食い違うきつめの口調が、とても印象に残っている。
あの子は、明後日までにこの本を読み終われと言っていた。
昼休みになり、輝樹はまっすぐ図書館に向かった。
昼ごはんは、あとでおにぎりでも買おう。
本を開いてちゃんと読んでみると、あることに気がついた。
この本には、プロローグしかない。
最初のページには、「道順」という内容で図書館の道の辿り方が書いてある。
図書館の道と言うのは、机と机の間のスペースのことを言っているらしい。
図書館の机の配置が細かく見取り図にされており、矢印で細かく指示がされている。
ここを左…
ここをまっすぐ、ここは右…
もし僕以外に図書館内に人がいたら、こんなにウロウロしている人間はかなり怪しまれただろう。
幸いここには、司書の先生しかいない。
それにあの人は今、手元の本を読むのに夢中になっている。
ここで…とまる。
またあの不思議な場所に行けるのだろうか。
赤い絨毯で天井の高い、壁には観覧車時計のかかった大広間のような部屋。
ー何も…起こらない。
その時、
ゴチっ!
「きゃっ!」
後ろから人がぶつかって来て、その人が派手にしりもちをついた。
「あっ、すいません!」
ぶつかって来たのはあっちだが、なぜか謝ってしまう。
この子はー
中村さんだ。1年7組、中村奈々。
司書の先生の美人の話題をかき消した張本人。
本当に整った顔をしているな。
そう思った時、
彼女の手に見覚えのある本が握られていることに気がつき、思わず聞いてしまう。
「あ!それ、『逃亡』?」
えっと、驚いた顔をしている。
「そうです!あ、もしかして8組の人ですか?」
「え?なんでわかるの?」
彼女が言うには、各クラス1人ずつ、僕があの部屋に行くよりも前に集められていたらしい。そこであの小さい女の子が「8組の逃亡者は、諸事情で同時に呼ぶことが出来なかった」と言ったらしい。
僕の他にも、あの部屋に行った人がいたのか。
彼女がつづける。
「あの、私も道順に沿って歩いてたんです。何か起こりましたか?」
いや、何も起こらなかった。
絶対に何かは起こるはずだと思って臨んだのに。
首を横に振ると、ですよね…と言う声が返ってきた。
「あ、私、7組の中村奈々です。よろしく。」
自己紹介の流れらしい。
「僕は、8組の神山輝樹です。よろしく。」
「あ、神山くんかぁ」
ん?なんだ、知ってるのか。
でも、嫌な予感しかしない。
どうせ、8組でいじめられてる人とか、そういうので有名になってしまっているのだろう。
話題をそらす。
「えっと…どうする?この道順、通っても何も起きなかったけど、明日までに読み終われって言ってたよね。」
彼女がうんうんと言ってから、話し出した。
「明日になればわかるかもよ」
それもそうだ。もう昼休みが終わってしまうし、何も食べずに5限を受けるのは流石につらい。
また明日、ここに来てみよう。
そう言って彼女と別れ、僕は地下の食品売り場に歩いた。
おにぎりを食べながら、5限を受け終わる。
その時、
バァァァン!!!
「うわっ!」
「きゃあ!」
「何何何いまの!!」
クラス中で悲鳴が上がっている。
隣のクラスの人たちがドタドタと外に出て来た。
先生たちも、何だ何だと騒いでいる。
この爆音が、後に僕ら8人の目を輝かせることに、僕たちはまだ、気がついていなかった。
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