第8話ロースペック

私はいっつも劣等生だった。


どれだけ頑張っても誰にも評価されなかった。


いっつも私は、私より人気な子に私の立場を奪われていた。


でもそれで愛想を悪くしたくはなかったので私は笑って流した。


いつからだろう。私は「ロースペック」な劣等生へ成り果てた。


けど、どんな世界でも私は愛した。


家に帰れば家族が待ってる。

あったかいご飯を作って、私を見て「おかえりー」と言ってくれる。


お兄ちゃんも私に優しくしてくれるし、まだ小さい弟を抱きしめることは幸福感に満たされたほどだ。


相変わらずロースペックと 周りからは嘲笑されたが。


でも私は笑顔を保った。


確かにこの世界は私を好きにはなれないかもしれないけど。


私は世界を愛してるから。


世界は日々私を愛していなくても。


……まあ、でも報われなかったよ。


きっかけはなんだったかな。


皆で私を劣等生呼ばわりしてきたんだ。


あはは、そこまで酷い過去でもないって?


そうだよ、酷くはないよ。


……けど、一つ一つの凶器には勝てなくって。


私はいつしか名前さえ呼ばれなくなった。


劣等生って言えば通じるから。


しまいには先生にまで劣等生って呼ばれるようになっちゃった。


それでも私は笑い続けた。


いつだって頑張れば報われると信じてきた。


そんな私を「優等生」な彼は悲劇のヒロインぶった奴と言った。


私は、あなたみたいな。


優等生になりたかったよ……


私は曖昧に笑って流した。


嗚呼、目眩がする。


なんてこの人達は汚いんだろ?


私なんかいらないんじゃないかな?


しかし「劣等生」がいなければ「優等生」にはなれないらしい。


全く持って意味不明である。


……もう、こんな世界に光なんて無いよ……



光を失ったと思っていたのに。


こんな生ぬるい世界で劣等生として過ごすと考えていたのに。


ある朝。


……優等生が、独りぼっちになった。


優等生はいつものように笑っていた。

でも私は気付いたんだ。


……あれは頑張って笑ってるだけだって。


「……✕✕君」


彼は生気の無い瞳で私を見つめて、ふにゃりと笑った。


ハイスペックな彼らしくない、弱々しい笑みだった。


「何?〇〇ちゃん。」


「……あのね、私は、」


貴方みたいな、優等生に。


「……貴方になりたかった」


「……うん。俺も」


「え」


「俺も、キミになりたかった」


「なんで?」


彼は泣いたのだろう、少し赤い目を細め、笑った。


「優等生は、いらないんだよ。劣等生は必要だけどな」


……なんで?


私は誰にも必要ないんじゃないの?


「優等生は、いるだけで周りが劣等生になっちゃうからな。周りは俺と比べられてさぞかし不快だったんだろうよ」


「……私は」


彼の弱々しい姿を見て、何かが切れた。


「私は違うよ!いっつも貴方に救われてきた!」


「……!」


「貴方の自信満々な態度も、上から目線も、そりゃあ皆嫌がるかもしれないよ!?けど、私にとってはヒーローなんだもん!」


「どう、して」


「いつだって自分の能力を信じてきたでしょ!?私もあんな風になりたいって、思えたんだよ!」


「……っ、自分の能力なんて頼りにならない!」


「!」


そう言って彼は今朝貰ったばかりだったトロフィーと表彰を睨み付けた。


「こんなもん、何個あったって変わんないんだよ!何個あったってそれが✕✕の証明にはならない!ぜーんぶ✕✕の能力の証明なんだよ!」


彼は怒鳴りながらトロフィーを掲げた。


「こんなもん、壊れちまえ!」


それが机に叩きつけられそうになる瞬間……


「私だって、欲しかったよ!」


「!」


彼が止まり、私を驚いたように見つめた。


「私は、こんな物を貰ったこと無いよ!ずっと羨ましかったんだ!それを……なんで!なんで壊しちゃうの!?私は努力しても貰えなかったよ!なんで!?なんで私が欲しい物を、貴方は全部持ってるの……?」


まくし立てると彼はフッと力を抜いて椅子に崩れ落ちた。


「あのな、〇〇ちゃん。」


「うん」


「俺は、確かに皆が羨ましがるような才能を持ってる」


断言する当たり彼らしい。


「でも、俺が欲しかったのは、どうしても手に入らなかったのは、努力と頑張り」


「✕✕君……?」


「〇〇ちゃんはいっぱい努力してたろ?おまけにいっつも頑張り屋で、劣等生って呼ばれても頑張って笑ってさ。心底羨ましかった」


「俺はハイスペックだから、努力も頑張りもわかんねーwww」


彼は立ち上がり、フラフラと教室を出ようとした。


「何処に行くの?」


何故か私には彼の行先がこの世の何処でもない気がした。


「……今までありがとう、〇〇ちゃん。いっぱい密かに元気貰ってたよ」


「待って!」


「何?」


もう彼は止められないかもしれないけど、なら、最後に伝えよう。


「私は、✕✕君が好きだよ!」


「……」


しっかりと見据えると、彼は驚いたように私を観察していた。

疑ってるのかな……


「……ははっ、何それ」


彼はふふっと口元に手を当てて控えめに笑った。


「俺も好きだよ。ロースペックな劣等生だって思ってたけど、やっぱり自分と反対のキミから、元気を貰ったし」


「……!

……私は、悪い子で、ロースペックで、劣等生だけど」


「俺は、いい子で、ハイスペックで、優等生だけど」


「「こんな自分で良ければ付き合ってください」」


ロースペックな子も、ハイスペックな子も、結局は独りぼっちだったんだなぁ……


これからよろしくね、優等生。




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狂う歯車 狂人 @natsumi0818

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