第3話イラナイ子
僕は、イラナイ子らしい。
今日も産まなければよかったと母に言われた
生まれてきたことが申し訳なかった
僕は、どうやらイラナイ子のようだ
僕の出来が悪いせいで両親が喧嘩した
優秀な兄と比べられたようだ
生まれてきたことが申し訳なかった
僕は、イラナイ子だと思う。
学校から帰ってきた兄の頬に痣が出来ていた
兄に聞くと笑って撫でられた
「兄ちゃん、転んだんだよ」
と。
両親も、兄も毎日辛そうだった
僕がいなくなれば皆笑顔で過ごせるのだろうか?
今日は、誕生日だった。
兄はこっそりクッキーを持ってきてくれた
「ケーキじゃなくてごめんな」
と言って。
クリスマスの朝、机には兄からのプレゼントがあった。
開けると、腕時計が入っていた
そういえば受験で腕時計が必要だった
その腕時計を、引き出しにそっとしまった
大晦日も兄は部屋にきた
一緒に蕎麦を食べるという
僕は丁度丸一日ご飯を食べていなかったので夢中で啜った
その蕎麦は、とても美味しかった
お正月には、兄と一緒にゲームをした
両親に気付かれないよう1回だけ。
久しぶりのゲームはとても楽しかった
「今年もよろしくな!」
兄は太陽のように笑った
しかし、兄との今年は半年もなかった
ああ、僕はイラナイ子だ。
眠る兄を見つめてそう思う
両親が涙を流して兄を呼ぶ
親戚が僕を慰める
それさえ、別世界のようだった。
毎日兄と一緒にいたのに兄が苦しんでいるのに気付かなかった
兄は、優秀じゃなかった
僕と同じイラナイ子だ。
必死で努力して自分をつくったんだ
そんなことにも気付けないなんて、
───やっぱり僕は、イラナイ子だ。
僕の腕時計が秒針を刻む音と啜り泣く声が式場に響いた
僕は、イラナイ子。
兄も、イラナイ子。
ごめんね、お兄ちゃん。
「今、ソッチ二行クヨ────」
アア、僕イラナイ子。
イラナイ子は、イラナインダ
ナラ、早ク。
イナクナレ。
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