死にたがりの少年は・・・

影狼

第1話 少年

_何で生きているんだろう_

背の小さな少年は真夜中に小さな泉の前に座ってそんなことを考えた。

他人にそんなことを聞いたらきっと変な目で見られるだろう、だから『考える』という事をしている。

『考える』という機能が人間っという生物に無ければよかったのに。

僕が生まれてこなければ『考える』という事をしないままいられたのに。

そんなことも頭の中で思ったりもした。

何も考えたくない、それなのに僕はつい考えてしまう。

冷たい風が頬に触れる、それはまるで僕の頬を誰か触れたようだ。

「風さんおしえてよ、生きるって何?生きる事ってそんなに大切なの?」

もちろん風は何も答えてくれない。

ただ僕に触れるだけだった。

代わりに誰かの声が聞こえた。

「生きる意味なんて考えてるの?」

「誰?どこにいるの?」

回りを見回すが誰もいない。

その声はまるで感情の無い、無機質な声だった。

「ここだよ。泉の中。」

泉を見るとそこには美しい少女が映っていた。

その少女はまるで絵本の中に出て来るお姫様の様な姿をしていた。

「キミは?誰?」

「私?誰だろう・・・何をしたって考えたって無意味だから分からない。」

「何を・・・言ってるの?」

「自分でも分からないや。」

少女はまるで人の真似をしようとする人形のように表情を変えようとするが表情が変わることは無かった。

少年はその少女に謎の感情が生まれた。

_何だろ、なんかモヤモヤするような_

「キミはどこかで会ったことある?」

「さぁ?」

「なんで泉の中に居るの?」

「・・・私の居場所だから?」

少年には少女に対する恐怖は生まれてこなかった、むしろ安心感がどこか心の奥にあった。

「・・・貴方って私と少し似てて、それでもかなり私と違うね。」

少女はどこか悲しげな表情を少し見せた。

「違う?」

「うん、だって貴方には自由があるでしょ?」

「けど自由があっても、生きてる意味が無ければ無意味でしょ?」

「そうだね、無意味だね・・・けど意味を見つけることが生きる意味なんじゃないの?」

「そう・・・なの?」

「私はヒトではないから分からない・・・けど、そうなんじゃない?」

「けど僕は死にたい。」

「なんで?」

「生きているだけで回りが不幸になるから。」

「生きてるだけで?」

少年には小さいころから不幸が付いてきた。

それは回りに与える不幸・・・

両親は村の火事で死に、初めての友達も馬車にひかれて死んでしまった。

そんな少年にはいつの日だったか【死神】と言う名前が付いた。

「あなたは自由のかわりに不幸を手に入れてしまったのね。」

「キミには不幸はある?」

「私は逆、自由じゃない代わりに・・・『感情』のかわりに何も知らないままでいられる、人に笑顔だけ与えられる。」

「笑顔を?」

「うん」

少女は無表情のままうなずいた。

「キミにも笑顔を与えられるよ。」

「ホントに?」

「そのかわり約束、私に毎日会いに来て。そうしないと笑顔は消えてしまうから。」

「・・・僕を笑顔にして。」

「わかった」

その日から毎日僕は少女に会いに行った。

少女の言っていたとおり僕は少しづつ笑顔を取り戻した。

友達が出来るきっかけ、【死神】と呼ばれなくなるきっかけが出来たのだ。

いつの間にか僕の周りには人でいっぱいだった。

僕は毎日彼女の所へ行き一日の事を話した、そして彼女に心惹かれて行った。

そんなある日、また不幸がおこった。

その不幸は・・・あの泉を埋めるという事だった。

村のものはみんなそれに賛成だった、かつてあそこは死の泉といわれていたのだから・・・けれど僕は反対をした。

けれどそれを止めることはできなかった。

埋める日の一日前。

僕は彼女にそのことを話した。

「わたしにも死と言うものがくるのね。」

「池から出てこれないの?」

「言ったでしょ?私には自由が無いって。」

「けど・・・」

「ここが埋まっても、あなたがここに来る限りあなたは笑顔でいられる。」

「え・・・」

「だって私の姿が見えるってことは・・・」

「・・・」

少女は黙ってしまった。

「どうしたの?」

「とにかく私がいなくなってもあなたは笑顔でいられるの。」

「笑顔でいるなんて無理だよ。」

「なんで?」

「だって・・・」

少年は言うのをやめた、最後まで言ってしまったらいけない気がしたから。

「キミの願いって何かないの?」

「私の?」

「そう」

「・・・私は・・・貴方の様に笑顔になりたい、感情を知りたい。」

少女はどこか泣きそうな顔で少年に言った。

「僕がかなえてあげる。」

「けど・・・」

「大丈夫、次は僕が君を笑顔にする番だから。」

「私は明日で終わってしまうのに?」

「明日で終わり何て言わないで。」

「じゃあどうやって。」

「僕がずっと君といっしょに居てあげる。」

少女は初めて人間らしい表情を見せた。

「僕は君の笑顔が見てみたい・・・それが最後の望みだよ。」

「私はここから出られないのに?」

「僕がそっちに行くんだ。」

「会えるか分からない。」

「やってみないとわかんないだろ?」

少年は少女を安心させるかの様に笑って見せる。

「僕は君のおかげで短い間幸せになれたんだ、だから。」

少年は泉の中に身を投げた、小さいはずの泉は思っていた以上に深かったけれどどこかあたたかく感じた。

「馬鹿、何で。」

少女の声が耳の近くで聞こえた。

答えることなく少年はただ幸せそうに微笑んだ。

ただ沈んでいく体、少年は息が出来なくなるのを感じながら意識をなくしていった。

そんななか最後に少女の一言と表情をみた。

少女は微笑んで少年の頬に触れ

_もしも貴方と幸せになれるなら・・・_

少年にはその続きを聞くことはできなかった。


その次の日、少年が行方不明になったと同時に泉は埋められた。

埋められる当日、泉を見たものはこういった。

泉の中で行方不明になった少年と美しい少女が幸せそうに眠っていた姿を一瞬みたと。

誰もそれが本当の事なのか分からないだろう。

ただ一つわかるのは、二人は幸せになれたということだけ・・・






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死にたがりの少年は・・・ 影狼 @yodukikagami

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