Episode:Ⅲ 不穏

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ! くッそ、終わんねェんだけどッ!」

『叫んでも書類ソレは消えてくれぬぞ、肆ヶ峰しがみね?』

「うッせ、蛇じじぃは黙ってろッ! つーか、鬼狩きがりの奴、何処に行きやがったッ!?」

「鬼狩さんならさっき河、流れてましたよ?」

「またか、あの莫迦!」

仁棲ひとずみ白洸びゃっこうの餌は?」

「あれ? あげた筈ですが……??」


机上の書類量に悲鳴を上げた男性がキレながら何処かへと姿を消した。恐らく“鬼狩”と呼ばれていた人物を呼び戻しに行ったのだろう。

もぐもぐと肉まんを頬張っている少年に黒色の蛇、フードに覆われた性別不明の人物、水槽には白色のウーパールーパーが泳いでいる。

少年が首を傾げながら蛇とフードを見て問う。


「そう云えば“夢視”さんは?」

彼奴あやつは床に伏せっておるよ。相変わらずの病弱じゃのう…』

「醒め初めは誰だってンなモンだろう。“秘路”殿とは違うんだ」

伽羅紅からくれさんも熱とか出したんですか?」

「俺は声が出なくなった位だ。その間は不便で仕方無かった」

「僕も身体に力が入らなくてすっごい困りましたよ。“異才”持ちって皆体調崩したりするんですか?」

「ほんのたまにってのは居るな。あとは“秘路”殿みたいその時奴はならない」

『儂のような場合はそう無いの。儂のような例ははっきり云って“”じゃ』


水槽内のウーパールーパーがゆっくり尻尾を揺らした。

少年──名は仁棲 すぐると云う──が最後の一個である肉まんをごくんッを飲み込み、先程出て行った男性の机上デスクを見る。


「肆ヶ峰さん、鬼狩さんの相方するの大変ですね〜…」

「ま、良いんじゃないか? 何気に息の合う漫才コンビだしな」

「伽羅紅さん、それ褒めてませんよね……?」

「なんの事だかな?」


伽羅紅と呼ばれたフードが口元に微笑を浮かべ肩を竦めた。

その隣で“秘路”はとぐろを巻き、寝る体勢を取る。

優は積み上がった書類を幾つか自分の机上デスクに移動する。

その時は誰も、不穏な影が街に近付いているとは知らなかった。

“夢視”が視た、未来の事も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る