Episode:Ⅱ 夢視と刻人の邂逅

ふっと目が覚めて辺りをきょろっと見渡すと、珍しい来客が来ているのが目に映った。出不精にしては珍しく、自分で訪ねて来たらしい。

来客を見ながら身体を起こし、声を掛ける。


「珍しいね、君が自ら足を運ぶなんて?」

「呼ばれたんだよ、に」


面倒臭げに息を吐き、来客は壁に凭れ掛かりながらの隣を顎で指しながら云う。

彼が指した先に居たのは黒々とした艶のある鱗を持つ蛇が居た。

彼を呼んだ張本人らしい蛇はというとどやぁっと効果音が聞こえてきそうな程、満足げに鎌首を擡げて此方を見ていた。


「嗚呼成程ね。“秘路ひめじ”さんが呼んだんなら来ない訳にはいかないもんね」

「わざわざ“刻巡ときめぐり”してる時に呼ぶか普通? こンのくそじじぃが」

『じじぃでは無い。“秘路”だ』

「“秘路”さんって刻人ときひととそんなに年齢とし変わんないんじゃないの?」

『いや、刻人の方が少し下だ。儂の視初みそめに選ばれた奴だからの』

充分じゅうぶんじじぃじゃねェか。蛇のクセして偉そうに云ってンじゃねェよ」

「そういう刻人もでしょ、見た目はボクと変わらないけど」

『そうじゃぞ、刻人も儂の事云えんでは無いか』

「じじぃと病弱引き篭もりに云われたかねェよ。それで? 俺は何の用事で呼び出されたんだ、わざわざ“刻巡り”中に呼ぶんだから訳があるんだろ」


刻人と呼ばれた青年が蛇を見て気だるげに云う。

その言葉に今まで軽口を叩いていた蛇はちろりと二股に分かれた舌を出して、真面目そうな顔を作り云う。

真面目そうな顔を作っているのは良いのだが全然そう見えないのはボクだけじゃない筈である。現に刻人の顔が来た時よりも険悪になっているのだから。


『嗚呼そうじゃった。御主を呼んだのはな……』

「はよ云え。あと五秒」

『御主を呼んだのは……特に理由はありゃせんのじゃ。単に呼び付けてみただけじゃ』

「……はァ?」

「……へっ?」


真面目そうな顔を作ってわざわざ勿体ぶって云う台詞ではない。一瞬でも信じたボクが莫迦に思えてくる。

刻人の眉間に皺が寄り、刻人が蛇の首を掴もうとして手を伸ばすが、するりと蛇は難なく躱してしまう。


『なんじゃ、危ない。鱗に傷でも付いたらどうしてくれるのじゃ?』

「勝手に傷付け、救いようの無い糞じじぃ。何が『呼び付けてみた』だ、暇か、暇人ならぬ暇蛇か!?」

「それすっごい、的を射てるよね……“秘路”さん、ボクも信じちゃったじゃないですか…」

『騙される方が悪いのじゃ』

「何、自分が悪かねェって云う風に云ってんだ、おいコラ」


しれっと云う“秘路”さんに刻人のこめかみに青筋が幾つも浮き上がる。

この二人は相変わらず『混ぜるな危険』、である。よっぽどの事が無い限り協力態勢を取らない。

まぁこれ以上此処で暴れてもらうとボクが困るので、渋々ボクは二人を止めに入った──…。

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