第二十一話 それぞれの戦い
アクティニディア、フィルメルス城
これはミルマ達が出発した後、見張り塔に魔族が現れる前の話。
「では、私も行きますね」
アリュールはマルスプミラへと戻ろうとしていた。
「ええ、国の問題が解決したらちゃんと顔見せに来るのですわ。わたくしは他国の人間が、なんて小さいこと言いませんし」
「はい、また五人で、今度は戦いの話じゃないといいですね」
フィルメルスから馬を借り、マルスプミラの方角へと出発する。
マルスプミラはミルマ達が行った方向とは違う方向だ。
こうして城に残ったのはアンテだけとなったのである。
時は戻り、見張り塔が襲撃され、伝令係が城へと戻ってきた。
魔族の大体の数と方角等をフィルメルスへと伝える。
すぐに防衛部隊と見張り塔方面に魔族の退治へ向かう攻撃部隊が編成され、兵達はすぐに配置へ付く。
戦闘がなくても日頃から準備をしているからか、その行動は早かった。
しかし、フィルメルスを先頭とした攻撃部隊が出発をしようとした時、少し先にある防衛拠点の砦から大きな爆発が起きた。
「想像以上に早いですわね」
爆発と共に姿を現したのは人型の鉄の塊だった。
圧倒的な大きさと破壊力、防衛拠点である砦はあっという間に瓦礫の山となる。
そこから大量の魔族が流れ込んで来た。
少し動揺を隠せない兵に対し、フィルメルスはいつもと変わらない強気の態度で指示を出す。
「攻撃部隊はわたくしと共にあの鉄の巨人を、防衛部隊は小型の魔族達を! 一匹も城及び街に入れないことですわ!」
兵達はその指示で士気を取り戻し、攻撃部隊は前へ、防衛部隊は小型の魔族を迎え撃つ態勢を取る。
フィルメルスが鉄の巨人と呼んだ敵は動かない。
その間に魔族達は数えきれない程やってくる。
前衛部隊はそれを最低限迎撃しつつ鉄の巨人の方へと向かっていく。
フィルメルスは後方の安全を確認しながら前へと進む。
鉄の巨人が大剣を持ち上げる。
(持ち方がおかしいですわ)
(向かってきてるわたくし達を追い払う為ならあんな持ち方は……)
(まさか、あれを投げ!?)
その予想は確信へと変わる。
鉄の巨人は持っていた大剣を城の方へと投げた。
フィルメルスは目の前に居た中型の魔族を踏み台にして大きく飛び、その大剣の先端へと持っていた両手斧と自分の身体を思いっきりぶつける。
衝撃で両手斧は粉砕され、フィルメルス自身も大きく吹き飛ばされる。
投げられた大剣は先端部分に横から大きい力がぶつかった為、飛距離が落ち、軌道が少し逸れて城ではなく城壁へとぶつかった。
「フィルメルス様!!」
兵達の動揺が高まる。
横へと思いっきり吹っ飛んたフィルメルスの方へと兵の視線が集まる。
その隙に魔族が兵士の背中を斬ろうとするが、その魔族へ片手斧が刺さる。
「わたくしの心配より自分の心配をすることですわ!! それと非難させた住人、城内の人間に被害がないか確認を!」
額からは血が流れており、大丈夫とは言えない状態だが、フィルメルスの目は既に次を見ている。
投げた片手斧を取り、後ろ腰に装備していたもう一つの片手斧を手に取る。
「さあ、あれを倒しますわよ! わたくしの城に傷を付けたことを後悔させてやりますわ」
その頃のミルマ達。
「坂ぁ、長いね……」
「あと少し、頑張って」
長いこと坂を登ってへとへとのミルマと疲れた様子が見えないクローゼ。
ようやく山頂へと辿り着く。
「今日はここで休みましょうか。明日はこれを下らなきゃだしね」
「で、ですよね……。あ、あそこにあるお城みたいなのって」
ミルマが指差す方向には城のような建物が見えた。
「そう、魔族の城。おそらくあそこにゴールは居るわね。上から見ると近そうだけど、実際にはもうちょい距離あるわね」
「フィルメルス城も見えるよ!」
その時遠目にだが城に向かって飛んでいく何かが見え、それは城へとぶつかったように見えた。
「え……?」
驚きの表情のミルマ。
その後方で再び一瞬瞳を青くさせてアクティニディアの方を見るクローゼ。
「城から煙があがってるわね。それにあの巨大なのは何?魔族?じゃなさそうね」
「クローゼ!」
名前を呼ばれただけでミルマが何をしたいかが伝わっているのか、無言で頷くクローゼ。
二人は登ってきた坂を下ってアクティニディアへと向かおうとする。
「ッ!!」
クローゼは後方から殺気を感じた。
それに気付いたミルマも足を止め後ろを振り向く。
五体のゴブリン、だが通常の個体とは何か雰囲気が違う。
直後一体のゴブリンから青く光った球体のようなものが発射される。
「ミルマ!」
「大丈夫!」
ミルマは青い球体を剣で弾いた。
「何、この力?」
ゴブリンの攻撃とは思えない威力の攻撃に弾いた自分の剣を見ながら考えるミルマ。
「ま、いいや、急いでるからとっとと死んでもらうね」
「いいえ、ミルマは行きなさい」
踏み込み剣を振ろうとしたミルマをクローゼが止める。
「どうして?ゴブリンなんて二人なら一瞬だよ」
「今のを見て分かる通りよ、何かが違う。それに……。他にもまだ居るわ、だから先に行って」
一瞬考えたミルマだったが、すぐに坂を下る。
「絶対、来てね!」
「ええ、アクティニディアでね」
ミルマが坂を下って行くのを確認してからクローゼは残ったゴブリンを一瞬で殺す。
そして一人問いかける。
「隠れてないで出てきたら? 魔族の王様」
山頂に生えている木の中で最も大きい木の裏から声がした。
「なんだよ、バレちまってたか」
見た目はゴブリンだが、その体は通常に比べて巨体で丸い形の斧を持っている。
声の主、ゴールはクローゼの正面に姿を現す。
「よお、久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
クローゼは明らかに不快な顔をしている。
対してゴールは機嫌が良さそうだ。
「なんだよだんまりか、せっかくの再会なのによ」
「あら、私はあなたを知らないわ」
「いやぁ、しかし驚いたよ。まさかお前が――なんてな」
王国マルスプミラ、城門
アリュールは木の陰で馬を降り、歩いて城門へと向かう。
一発の銃声がした。
気付いていたのかアリュールは剣でそれを弾く。
「イリアス……」
城壁の上からの銃撃、その主は七つの剣の一人、イリアスであった。
「アリュール、君をマルスプミラに入れることは出来ない」
「イリアス、私は国へ戻れなくても構いません。しかし、話を伝えて下さい。このままじゃマルスプミラは……」
「もう大混乱だよ、城では国王様だと思っていた人物が突然暴れ出し、それと同時に町中にグロウ国王と同じ顔の人物が現れ、住民を襲い始めた」
「それは偽物です。本当の国王様は」
城壁の上のイリアスではなく、城門の方から声がした。
「何が偽物か、何を信じられるか皆分からなくなってしまったさ。勿論、私もね」
「ルナール。聞いて、メストは」
その言葉を遮るようにルナールは刀をアリュールに向ける。
「アリュール、君が嘘を吐いたりするとは思わない。だが、操られてる可能性は?」
「証明してみせろ、ということですね」
アリュールは剣を構える。
「そう、君が本物なら私を殺せるはず」
「分かりました、全力で行きます」
ルナールは城壁の上に居るイリアスに声を掛ける。
「イリアス、いいか? もしも私が死んだ場合は自分で見極めろ。頭の良い君なら気付くはずだ、本物か、偽物かに」
「!? わ、分かった……」
一瞬驚いたイリアスだったが、言葉の意味を理解したのか頷く。
ルナールは視線をアリュールの方へと戻す。
「さて、始めようか」
「はい、覚悟は出来ています」
お互いが同じタイミングで地を蹴り間合いを詰める。
マルスプミラでは同国の精鋭同士、アクティニディアでは防衛戦が、ある山の上では人間と魔族が、こうして三つの戦いが始まった。
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