第二十話 迫る大群
アクティニディア、フィルメルス城
「お世話になりました」
「予定よりも長く居座ってしまったわね」
ミルマとクローゼは再び魔族を殲滅する為旅に出ようとしていた。
今はいつもの会議室にて全員集合し、挨拶をしている。
「もっと居て下さっても構いませんのに」
フィルメルスは冗談ではなく本心からそう言っている様子だ。
「凄く居心地良いですし、本当ならもっとここに居たいですよ! でも、まだやらなくちゃいけないことがあるので……」
申し訳なさそうなミルマ。
「そうでしたわね。その復讐、私は応援してますわよ。無事帰ってきなさい!」
クローゼはアリュールの方を見て一言。
「貴女にも、助けられたわね。ありがとう」
アリュールはいつも通り優しい雰囲気で答える。
「いえいえ、本当なら私も協力したい所ですが、自国の事が解決していないので……。マルスプミラに戻れるかは分かりませんが、問題が解決したら、必ずお手伝いにいきますね」
「頼もしいわね」
クローゼの表情は信頼している人物にしか見せない、嬉しそうな表情だった。
一方のミルマはアンテと会話中だ。
「アンテちゃんも、必ずまた会おうね」
「はい、です! フィルメルス様の言う通り、少し休みながら何がしたいのか考えてみます」
「次に様付けしたら追い出しますわ」
「ごめんなさい! フィルメルス、さん」
「あはは……」
その様子を見て苦笑いのミルマ。
ミルマとクローゼはこの楽しい雰囲気を名残惜しくも、アクティニディアを後にした。
アクティニディア、国境付近
「フィルメルスさんの人柄のせいか、良い所だったね、アクティニディア」
「そうね、町の雰囲気も明るくて活気に溢れていて」
「そのまま居ても良かったのよ?」
ふくれっ面のミルマ。
勿論本当に怒っている訳ではない。
「まーた意地悪言う!」
「魔族は、魔族が居る限りあいつ等はまた幸せな空間を壊しに来る、だから全部殺さなきゃ……!」
「全てが終わったらあのお城で一生怠けてたいわね」
「おお? クローゼが終わった後の話をするなんて珍しい!」
「いいねいいね!」
二人はそんな話をしながら国境を越え、今は魔族が支配していると思われる地域へと進むのであった。
その日の夜、日が沈んだこともあり二人は近くの森で休息を取ることに。
フィルメルスから貰った食料を食べ、片方が周囲を警戒しつつ片方が休む。
クローゼは自分が見張りをすると言ったがミルマは駄目と言って交代で見張ることとなった。
幸いこの日は襲撃はなく、朝になり二人は再び歩き出す。
「ねえクローゼ、あのゴブリンが居る方角ってこっちであってるの?」
「ええ、合ってるわよ。その前に村や町がいくつかあるけど」
「じゃあそこの魔族を蹴散らしつつ補給していく形だね」
「ええ、でもその前にお客さんよ」
クローゼの視線の先、数人の人間らしき影とそれよりも小さめの影が多数あった。
「あれは、ゴブリン! また人を奴隷扱いしてるのかな」
「何かを採らせているわね。この森を抜けた先の草原には村があるから、そこの人間かもね」
木に隠れながら様子を伺う二人。
ミルマは弓に手を掛け何かを訴えるかのようにクローゼの方を見る。
クローゼにはそれが伝わったようで静かに頷く。
「数は四体、叫ばれる前に殺しちゃうね」
狙いを定め一体のゴブリンに矢を放つ、しして命中を確認することなく次の矢を放つ。
二体のゴブリンが地に倒れる。
その奇襲に驚いた表情をしている残りのゴブリンも声をあげる前にその場に倒れる。
それと同時にクローゼは村人らしき人物の目の前に移動し、驚いて大声をあげないように伝える。
「き、君たちは?」
「魔族ハンターです!」
ミルマの言葉に一瞬驚いたような反応をした村人だったが、先程の腕前を見て冗談ではないと判断したのかすぐに落ち着いて話をしだした。
内容は予想通りこの先にある村から魔族を退治して欲しいとの事だった。
ミルマとクローゼはそれを承諾し、先へと進む。
「視界が良すぎるわね……」
今二人が立っているのは森の出口、そこから先は木や高い建物がほとんどない見晴らしの良い草原、そこに村はある。
「これじゃあ一人撃ったら全員が気付いちゃうね、どうしましょう教官!」
「最初に村を奪還しようとした時もそんな呼び方してたわね……。まあそれだけ余裕があるって受け取るわね。じゃあ作戦はこうしましょう、ミルマが突撃、私はここで見守る、完璧でしょ?」
「ごめん、ごめんってば!」
全く緊張感のない会話。
しかしその間も二人は草原の真ん中にある村の構造、魔族の居る位置等をきっちりと見ていた。
「村の中央にあるあれはなにかしら?」
クローゼが後ろに待機している村人へと問いかける。
「大砲とその弾です」
「ありがとう、あれ壊しても良いかしら?」
「え、ええ構いませんが……」
「決まりね。ミルマ、狙えるわね?」
「勿論だよ!」
「爆発して煙があがったら仕掛けるわよ」
ミルマは半身木に隠れたまま、弓を構え村の中央にある大砲の弾を狙う。
そして矢を放つ。
矢は狙い通り大砲の弾へと当たり、村の中央で爆発を起こす。
爆発はそう大きくなく、民家等は巻き込んでいない。
村の中央へと集まる魔族の視線、起爆後の煙があがったことを確認して二人は隠れていた木から村へと走る。
視界が悪いのはミルマもクローゼも同じだが、予め魔族の居た位置を把握していた事で大体の予想が出来ており、手前に居た数匹の魔族を剣で殺していく。
悲鳴を聞き誰かが居る事に気付いた魔族だが、まだ煙は濃く視界が見えていない。
クローゼはミルマに見えない角度で一瞬瞳を青く光らせる。
「見つけたわ」
すぐに瞳の色は戻ったが、敵の位置は把握出来たようでミルマに位置を教える。
「大砲から右に三歩、手前から二つ目の民家の屋根の煙突付近にいるわ」
「りょーかい!よく見えるね」
喋りつつもクローゼは見えた位置へと素早く斬り込み、ミルマもほぼ視界が見えていないにも関わらず伝えられた位置だけを頼りに矢を放ち魔族を殺していく。
視界が見えるようになった頃には魔族は全滅していた。
森の出口で待機させていた村人が戻り、声をあげることで隠れていた住人達が外へ出てきて喜ぶ。
その日は村周辺の様子を確認して魔族が居ないことを確認すると宿で休むことに。
翌朝、持ち運びしやすい食料を貰い、ミルマとクローゼは村を後にする。
「さあ、今日も張り切っていこう!」
「今日は魔族より坂との戦いだけどね」
「どういうこと?」
「あの山を越えるわ」
クローゼの指差す方向、そこには結構な斜面の山が見えた……。
同時刻、アクティニディア国境付近
「あれは……」
「おい、敵襲だ!魔族が大量に来たぞ!」
「すぐにフィルメルス様に報告するんだ」
見張りの兵士達の会話。
その先には大群でアクティニディアに向かってくる魔族達の姿があった。
伝令係と思われる兵が一人馬に乗り城の方へと向かう。
残った兵達は見張り塔に設置された大砲等の準備を手際よくしていく。
アクティニディアの兵達は戦闘慣れしており、大量の魔族が向かってきていても焦っている様子等はない。
ここの兵を率いているらしき人物が指示を出す。
「増援が来るまでの時間稼ぎが出来れば良い、ギリギリまで引き付けたら第二防衛ラインに退くぞ!」
兵の士気は高く、負けることなど少しも考えていないようだ。
その間に大砲、銃や弓を扱う兵士達の準備が整う。
「隊長!準備、出来ました!」
「よし、大砲を発射後、一斉射撃を行う」
ここで隊長と呼ばれた人物は何か異変を感じる。
魔族達は地上をただ歩いて向かってきているだけなのだ。
走ってくる者も居なければ空を飛んでいる者もいない。
「一番二番の大砲のみ発射、その後異変がなければ続けて残りを撃ちこむんだ」
「了解!」
二つの大砲から弾が発射される。
その弾は正面から歩いてくる魔族に当たる……はずだった。
「な、なんだあれは!?」
大砲の弾は魔族に当たる手前で何かにぶつかり爆発した。
不思議な光と共に姿を現す鉄の塊。
頭や目、手足があり、見張り塔と同じくらいの大きさと高さ、鉄の塊のような何かは傷一つ付くことなくそこに立っていた。
「全員撤退準備! 残りの大砲を撃ちつつ撤退するぞ!」
信じられないその状況に兵達は動揺していたが、隊長の声を聞きすぐに準備に取り掛かる。
しかし、その動きはすぐに止まった。
「もうちょっと驚いてくれなきゃ面白くないですねぇ……」
「誰だ!?」
隊長が振り向くとそこには鎌を持ったスケルトンが居た。
「貴様!」
隊長は剣に手を掛けようとする。
だが身体が動かなかった。
「なッ!? あ、が……」
「撤退なんてさせませんよ? 貴方達はここで終わるのですから」
直後スケルトンが後方へと飛び退く。
それでも兵達は動くことが出来ない。
「ゴール様から預かったこの兵器、使わせてもらいますよ」
鉄の塊は巨大な大剣を上から振り下ろす。
その一撃は見張り塔ごと兵達を潰す。
粉々に粉砕される建物、動けないまま大剣に潰される兵達。
それを見てスケルトンは言う。
「おぉ! これはこれは、中々爽快ですねぇ……! さて、それじゃあこの調子でアクティニディアの城も潰しに行きますかねぇ!」
こうして見張り塔は潰され、巨大な鉄の塊を先頭に魔族達はアクティニディアの城へと歩き出した……。
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