第二十二話 半壊した王都
王国マルスプミラ、城門前
イリアスの見守る中、二人は戦っていた。
アリュールは刀の重い一撃を細剣で綺麗に捌いていく。
どちらも攻撃が届く位置に入っては一歩引くような戦いが続いている。
一つ欲張るとそれが勝敗に直結するからなのか、決め手に欠けている。
(これが、アリュールの実力……)
アリュールが戦闘を行うことは殆どなかった為、イリアスは初めて見る彼女の実力に驚きを隠せない。
長く無言で戦闘を続けていた下からも声がする。
「君が国王様直々にスカウトされた理由が分かったよ。どこで習ったのか知らないが、動きに無駄がないね」
「ルナール、私達には時間がありません。このままでは国王様も、国も手遅れに」
「ならどうすればいいか分かっているのだろう?」
その間も剣と刀はぶつかり合っている。
ルナールが常に刀を振っている為、突きに特化しているアリュールの細剣はそれを捌くだけで手一杯に見えた。
「これが本物の武器を使った戦闘じゃなきゃもう少し続けたかったですが……。残念です。終わりにしましょう」
そう言ってアリュールは一旦後方へと下がり、強く地面を蹴り間合いを詰める。
まだ剣が届かない位置から突くような体勢で突進していく。
ルナールは突きを繰り出す瞬間を待っているかのように構えたまま。
力強い突きが繰り出される瞬間、ルナールは刀を振るった。
しかし、右手に持っていた刀はルナール自身の後方へと飛ばされ、アリュールの細剣は真上へ。
飛ばされた刀の方へ一瞬意識が持っていかれた瞬間に決着は付いていた。
アリュールは自分の剣が弾かれ飛ばされる位置を予測していたのか、真上から落ちてくる剣を取り、ルナールの首へと剣を向ける。
「私の勝ちです。これで話を聞いてもらえますね?」
ルナールは自分の首に向けられた剣を見ながら言う。
「はは、なら殺すんだな。本物と信じてもらいたいなら、話を聞いてほしいのならね」
アリュールは剣を向けたまま。
「いいえ、殺しません。例え偽物と言われようとこれが私なので」
ルナールは呆れたように、分かっていたようにイリアスに指示を出す。
「この良い子ちゃんは間違えなく本物のようだ。城門を開けてくれ。地下通路から王城に入るぞ」
「ありがとう、ルナール」
戦闘は無事終わり、アリュールは無事王城へと辿り着く。
王国マルスプミラ、王城
「これは……」
王城の屋上から王都を見渡してアリュールが声をあげた。
「国王グロウ様の姿で油断させ、市民を殺し、街を焼き払ったのさ。勿論オーディス様の指揮の下我々はすぐに動いた。だが、一体一体が強かったせいで見ての通りさ」
刀を見つめ悔しそうな表情のルナール。
「襲撃の際、あの化け物に対抗出来たのはオーディス様とルナール二人だけだった。俺は何も出来なかった……」
半壊した王都を見ながら悔しさを口にするイリアス。
「申し訳ございません。私が勝手に城を出てしまったから」
アリュールは二人を交互に見て聞く。
「オーディス様とウルスはどちらに?」
「オーディス様なら部屋で休んでもらっている。ウルスは……」
ルナールが説明する。
マルスプミラに現れた七体の仮面、それは国王の姿で兵や住民を惑わせ、人間や街を次々に破壊していったという。
熟練の兵士も国を閉ざして以来実戦がなかった為役に立たず、兵の中には実戦経験すらない者ばかりでとても戦える状態ではなかった。
相手はそれを知っていたかのように七体が離れた位置で行動を起こしていた。
オーディスとルナールが一体を倒す間、残りの個体が街を自由に荒らし、城を守っていたイリアス、ウルスだったが一体と相打ちになる形でウルスは戦死したとのこと。
オーディスの下へ向かうアリュール達。
部屋の扉をノックし、ルナールが簡単に事情を伝え扉を開けてもらう。
「おぉ、アリュール。久しぶりだな」
オーディスは椅子に座っており、目の前の机には大量の書類。
それを見たルナールは少し怒ったように指摘する。
「オーディス様、お体を休めるようにと言ったはずですが……」
苦笑いのアリュールはオーディスの方を見て口を開く。
「お久しぶりです。勝手な行動をし、このような事態を招いてしまい申し訳ございませんでした」
「なに、アリュールの事だ、国の事を思っての行動だろう。別に感情に流され突然行動を起こしたとかではあるまい」
「そう言って頂けると助かりますが……」
「現状は確かに酷い。だが、既に起こってしまったことは残念ながらどうしようもない。我々はこの先の被害を減らす為にしか動けないのだ」
オーディスは一度視線を机の書類、街の被害書等に向けるが、すぐにアリュールの方へ視線を戻す。
「王都に居ては一生分からなかった情報を持ち帰って来てくれたのだろう?」
「はい。まず、あの仮面人形を操っているのはメストです」
「な、なんだと!」
大声をあげたのはイリアスだ。
オーディスとルナールはそれを聞いても冷静なまま。
「ふむ、やはりか……。それで、そのメストは今何処に?」
「アクティニディアの地下牢、拷問室に居ます」
「アクティニディアだと、アリュール、君はあの国へ行ったのか?」
口を挟んだのはルナール。
「はい。アクティニディアは現在、国のトップが代わり以前のような攻撃性は全くありません。自国を脅かす相手には容赦しないでしょうが」
「偽物のグロウ様が国を閉ざしている間に世界は大きく変わっているのだな……」
「話を戻します。メストですが、度重なる拷問にも口を割らず、これ以上は時間の無駄と判断し、こちらに戻る前に処刑しようとしたのですが、そこでメストにしか聞こえていない、見えていない何かがあったのか、急に怯えだしたのです」
「それは殺されることに対してではなく、という事か」
「明らかに不自然でした。こちらの声は届いていないような感じの。その後メストは脱力したように全てを話しました」
アリュールは得た情報を三人に話す。
人形を操る力、傷を再生する力、それらは魔族から得たものだと。
魔族の王ゴールの側近レウメスから人間側の情報と交換に力を貰い、本物のグロウ国王様を魔族に渡したのも自分だと。
「そしてメストはこんなことも言っていました。魔族は魔法を手にしている、どのみち人間は全員殺されるだろう」
「魔法?そんなもの作り物のお話しの中にしか存在しないんじゃないのか?」
魔法と言う言葉に疑問を投げるルナール。
「私もそう思っていました。ですがメストの再生能力を目にして確信しました。この世界に魔法は存在するんだと」
唸るオーディス。
「うーむ、その魔法とやらは単純な力や技量ではどうにもならない程の未知の力、ということか」
「どれほどの種類があるのかは分かりませんが、あの仮面人形も魔法で作られたもののようです。あのような身体能力の高さでしたら人間にも対応出来ます」
「問題はメストが使っていたような再生能力のようなものという事か……」
少し暗い雰囲気を割るようにオーディスが立ち上がる。
「まあどのみち我々がしなきゃならないのは国を元に戻すことだ!その為には本物の国王様は絶対に取り返さなければならん。分からん力に怯えるよりも、態勢を整え魔族共に一杯喰わせてやろうではないか!」
重苦しかった空気は一変し、マルスプミラが誇る四人の剣達は今後の対応、作戦を練ることになる。
同時刻、とある森では
「邪魔だね、なんなのこのゴブリン達は」
坂を下り、解放した村を越え、アクティニディアへと戻る途中の森でミルマはゴブリン達に囲まれていた。
「坂の頂上に居たのと同じ……。通常のゴブリンとは違う」
ミルマの気持ちはすぐに片付けて早くアクティニディアに向かいたいが、仕掛ける為の一歩を踏み出せない。
ゴブリン達も動かず、ただミルマの方を見ているだけだ。
「足止め……?誰かの指示で動いてる?ううん、分からないことを考えてもしょうがないよね。いつまでもこうしてられない」
手を掛けていた腰の剣から手を離し、背中の弓を構える。
それでもゴブリンは動かない。
違和感を感じつつも状況を打破する為正面のゴブリンへ矢を放つ。
その矢は狙い通りゴブリンの頭部へと当たり、地面へと落ちた。
「これって……」
矢が当たったゴブリンはなんともないようにその場に立っている。
「拷問してたあのメストって奴と同じ、何か壁に守られている……?」
ゴブリン達は短剣を持ちじりじりとミルマに近寄っていく。
ミルマは弓を背負い再び剣に手を掛ける。
「ゴブリン、もっと嫌いになった。いつもいつも邪魔ばかりする……」
前方に剣を薙ぎ払い、ゴブリンに傷こそ付けれなかったものの、仰け反らせその隙に大きく前に踏み込み囲まれている状況を抜け出す。
一瞬そのまま走り去ろうとしたが、追ってくるゴブリンの速度が想像以上に早かった。
「アクティニディアに連れてくわけにもいかないもんね、やっぱりここで殺すしかないかな」
剣を構え正面から十匹程のゴブリンを迎え撃つ。
「クローゼ、それにアクティニディアも無事で居てね……!」
名も無き森でミルマと魔術ゴブリンの戦闘が始まった。
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