No,2 Red left eye of the white rabbit.Ⅰ
フェニックスとは、リアヴァレトの魔王城『レウクロクタ城』の城下町である。
「皇女様」
「なに。ロドル」
「そのように服装を変えなくてもよかったのでは?」
デファンスは自分の部屋にあった裾の長いエプロンワンピースに身を包んでいた。ふわふわのフリルはふちを飾るようにあり、女の子らしくロマンチックさを演出する。頭には真っ赤なリボン。
誰が置いたのかは分からなかったが、自分がいつも来ている服とはかけ離れている。
誰もデファンスだとは思わないだろう。
「馬鹿ねぇ、城から出るのに周りの執事が気づかないはずがないじゃない」
ロドルはそれを聞いてため息を吐いた。
「傭兵も居るはずなんですが、もぬけの殻ですよ。サボっているんです」
見た所人がいない。そう言えばそうだ、だがここまでいないのはおかしい。
違和感がある。
「こんなにいないのはおかしいわよ」
「そうですか? 僕は普通だと思いますけど」
ロドルの返しも普段の彼の返し方とは違う。少し違和感があるのだった。
「本当にそう思ってる?」
「はい、皇女様の勘違いですよ」
彼は至って真面目に答えているらしかった。
真面目に? この男が?
「皇女様、まずは外に出ましょう」
「ちょっと待って」
ロドルは首を傾げて待機している。その様子はいつもと変わりない。姿は確かにロドルなのだが、私は別人のような気がしていた。まるで中身は全く違う他人のような――。
「貴方って普段、私のこと皇女様と呼ばないわよね?」
そう言えばそうだった。呼び捨てか、名前に様付けならともかく彼はそう呼ばない。しかも普段から主人に対して呼び捨て、無礼極まりない執事なのだから。
「そうでしたか?」
彼は尚はてと首を傾げて言う。
勘違いだろうか。私がそう思った時だ。
「皇女様を皇女様と呼ぶのは当然ではありませんか? 僕は貴方の執事ですし、主人を様呼びで呼ぶ以外の呼び方はない気がしますが」
ダウト。完っ全にダウト。
「貴方本当にロドルなの?」
「そうですけど……皇女様、僕は何か変なことを言いましたか?」
ロドルはしょんぼりとした顔をして、デファンスの顔を覗き込んでいた。その様子はいつもの馬鹿にして鼻で笑う彼からは想像もつかない。
実に扱いづらい!
「それより皇女様、早く外に出ましょう。衛兵がいないのは皆サボってお茶でも飲んでいるのでしょう。さぁ、早く」
ロドルはデファンスの背中を押す。彼はやけに急かしているし、急いでいる。どうしてそんなに急いでいるのだろう。
彼は懐から懐中時計を取り出してそれを見ている。それはもうすぐ三時になりそうで、彼はそれを見てまたしまった。
彼が走る先をついて行くと、彼は城の玄関ではなくどこか違う場所に向かっているようだった。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「近道です。早く行かなければ僕が怒られてしまいます」
と言っても彼は走るのが速い。追いつけなくて段々と私が置いていかれる。それを見たロドルは引き返してきた。
そして、
「皇女様、片腕を僕の首に回してください。まっすぐ立ってくださいね」
そう言われてその通りにした。彼の細い首が片腕の中にある。
ロドルは深く息を吐き、デファンスの腰に手を入れ、スカートの裾を覆うように足の隙間にもう片方の手を入れて持ち上げた。
ふわりという感覚。
「皇女様、動かないでくださいね」
「え!? ちょっ……え!?」
「動かないで」
ロドルのまっすぐな視線になにも言えなくなってしまった。
私もこのお姫様抱っこ状態では何が出来よう。今の私にできるのは顔から火を噴きそうなのを彼に気付かれないようにすることだけ。ロドルは城の廊下をまっすぐ進んでいる。
この先にあるのはなんだろうか。
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