第37話 12月〜1月 アカネへの告白

 12月31日、アカネとのロックフェスの日だ。13時に海浜幕張駅に集合する。今日は長丁場になるぞ、そして明け方には告白だと気を引き締める。


 アカネと駅で落ち合い、ロックフェスの会場に向かう。道中、アカネは朗らかな笑顔を浮かべていた。僕の頬も緩んでいたかもしれない。


 受付でチケットを渡し、リストバンドとパンフレットに交換する。そして、クロークに二人の荷物を預けて、いざ愉しきかな、音楽の旅へ!


「アカネは何か観たいアーティストはいる?」


「チャットランチとリンスパフュームは観たいです」


「よし、それは観よう。僕はね、これとこれとこれは観たいんだ」パンフレットのタイムスケジュールから、アーティストを指さしながら僕は言う。


「ああ、グッドフォーエニシングは私も観たいです」


「あとは適当にぶらりぶらり歩きながら寛ごうか。屋台も充実しているんだよ。屋台の充実ぶりはフェスの中でもトップクラスなんだってさ」


 二人で色々なアーティストを観た。音楽性も雰囲気も様々で、さすが国内の音楽の見本市だ。ライブの合間には、屋台で二人でケバブを買って食べた。ケバブなんてこういう所でしか食べられない。


 そして、時は過ぎ、翌年へのカウントダウンの時間がやってきた。カウントダウンのアーティストはHIP SLYMEで迎えた。ロックアーティストの中で、今回唯一のヒップホップ勢であるHIP SLYMEは盛り上げ上手だった。外さないMCとノリの良いバックトラックの上に乗せるラップで客席の温度を上げていく。ヒップホップはあまり知らない僕でも知っているヒット曲は鉄板の盛り上がりだ。


 日付が変わる直前にHIP SLYMEのメンバーが10からカウントダウンしていって、大型スクリーンの数字もゼロになると、天井にあったくす玉が割れて大量の紙ふぶきが舞う。僕とアカネは破顔の笑顔を見合わせて年越しの瞬間を祝福した。


 カウントダウンの後、深夜から早朝にかけてのアーティストを何組か観終え、カウントダウンフェスは終了した。クロークに預けていた荷物を受け取るための人の列で待ちながら、「楽しかったね」や「あのバンドの演奏、盛り上がっていましたね」なんて言い合っていた。そして、これからが僕の本番。告白タイムだ。


 大勢の人たちの人波をかき分けるように僕たちは会場を出た。そして、会場の外、そこだけ人気のない看板の裏側のスペースにアカネを手招きで誘った。この機会は逃せない。よし、言うぞ。


「僕たちさ、去年の4月に出会ったよね。その時からアカネと過ごす時間が楽しくて、アカネといると幸せな気持ちになれるんだ。ベーススクールからの帰り道が毎回、愉快で楽しくて心があったかくて仕方なかったんだよ。今日のフェスも本当に楽しかったよ。アカネのことが大好きなんだ。なあ、僕と付き合ってくれないかい?」決死の告白だ。万里の時の失敗を踏まえ、告白に前置きを置いた。心の底にある本心からの前置きの口上だった。


 アカネは付き合ってくれるのか、返事の前の一秒が永遠に思えた。


「私で良かったら」アカネは顔を赤らめながらOKの返事を出した。


「よっしゃー! カウントダウンフェスは大成功! 何が大成功かもったいぶらずに教えろって? チッチッチッ、そいつはできない相談だな」


 僕は帰りの電車の中、スマホからブログにこう書き込んだ。嬉しすぎて軽くパニックだった。でも、これからもしアカネと長く付き合うとすれば、自分の病気のことは言わなくてはいけない。そのことを考えると気が重くなる。


 だけど、電車に乗る前に500mlのッペットボトルのミネラルウォーターを自販機で買って、それを勝利の美酒と見なしてチロリチロリと帰りの車内で飲んでいた。勝利の美酒は、これまで飲んだどんなミネラルウォーターよりもおいしかった。僕はミネラルウォーターで陽気に酔っぱらっていた。


 アカネも今、幸せな気持ちでいた。帰りの電車の中で、聡吾からの告白の時間を反芻していた。いつも隅っこにいる私を好きだと言ってくれる男性は今までいなかった。人に話しかける時はその人に嫌われてしまわないかすごく心配になる私だけど、そーさんなら自分の嫌なところまで受け止めてくれるように思える。優しいそーさんともっとそばにいたい……。

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