第35話 12月② 緊張

 外の気候は寒さの厳しさを増していく。僕は今、正宗の家にいる。正宗の家は暖房が効いていて温かく、部屋の中でぬくぬくして当分外に出られそうにない。正宗と対戦型のTVゲームで遊んだり、取りとめない話、くだらない話をして楽しく時間を過ごしていた。


 夜になり、正宗が懸案のあの事項について昼間と同じように触れてきた。


「なー、アカネちゃんをデートに誘ってみろよ」トイレから出てきた僕に、正宗がソファから身を乗り出して言う。


「嫌だよ。コクってフられるのも嫌だし」僕が眉根を寄せて言う。


「今度こそ成功するよ。マリリンの時は運がなかったのさ」


「そうかなぁ」僕には自信がない。


「4月から一緒に駅まで帰ってんだろ? しかも、相手も楽しそうって話じゃん。これは絶対脈あるって」正宗が念を押す。


「デートに誘って断られるのがなぁ」僕は渋り続ける。


「このやり取り、今日で何回目だよ。どうれ、スマホを貸してごらんよ」僕がテーブルに置いておいたスマホを手に取って正宗が言う。


「分かった、分かった。自分でメールを打ってみるよ」僕は仕方なしにといった感じで言った。


「せっかくだから、クリスマスの日にデートに誘ってみろよ。脈あるかはっきりするぜ」正宗がとんでもないことを言い出す。


「えぇー? 嫌だよ」


「いいからスマホを貸せよ」正宗は強引だ。


「分かったよ。クリスマスの日に誘えばいいんだろ?」


 僕はメールを打ち始めた。「佐藤さん、こんばんは。25日の夜に一緒にご飯食べませんか?」と打ち終えたところで、今度は送信する勇気が持てない。


「送信してみなよ。ここは攻めるべきところだぜ」人の気持ちも知らずに正宗が言う。


 しかし、せっかくメールを打ったんだ。この流れでこのメールを送信しなければ、一生アカネとデートする機会は持てないかもしれない。僕はどうにでもなれと思いながらメールをえいっと送信した。


「よしよし。やればできるじゃないの。あとは返信待ちだな」正宗はあっけらかんとしながら笑って言った。


 僕は胸が破裂してしまうのではないかと思うほどドキドキしながら、メールの返信を待った。


 すると、5分も立たないうちにメールが返ってきた。メールには、「ぜひ。お願いします」と書かれていた。


「おおっ、良かったな!」正宗は屈託なく笑って言う。


 僕も嬉しくなって自然に笑顔になった。アカネとデートできる喜びに心を浸していた。


「いいか、今度のデートではお互いに下の名前で呼べるようにするんだぞ。そして、こいつは俺からのプレゼントだ」


 正宗はそう言って二枚のチケットらしきものを渡してきた。よく見ると、カウントダウンのロックフェスのチケットだった。


「友達と行くはずが、バンドが忙しすぎて行けなくてさ。アカネちゃんと二人で観てこいよ」


「えっ、いいのかい? こんなに高価なチケットを」


「いいんだよ。上手くロックフェスに誘うんだぞ」


 やはり、正宗は男前だ。僕はありがたくチケットをもらって、前哨戦となるクリスマスデートに備えることにした。

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