第34話 12月① カラス

 12月になり、街は厚着の人であふれるようになった。2月の初ライブに向けて、僕が家で自主的に練習する量も増えてきた。今まで一週間に一時間だった自主練の量が、一日一時間になった。一日一時間でも、これは大きな進歩だ。


 今日も藤原の家の近くのスタジオに入る。藤原が作ったオリジナル曲とミカンズのコピー曲を練習する予定だ。サポートのドラムは欠席だ。このドラムは僕らのバンドに対して乗り気ではない。藤原はサークルの先輩にあたるので、後輩のドラムは先輩に誘われたから仕方なく参加しているという印象だ。


 スタジオの一室に入ると、藤原がオリジナル曲のギターリフを考えてきたというのでそれを聴く。奇妙な音階の動き方をするギターリフだが、オリジナリティがあって、昔のサイケバンドを彷彿とさせる。藤原の発想力の豊かさに感心した。


 僕もMTRに録音した自分のオリジナル曲を聴かせる。ベースの演奏に僕の拙いボーカルとMTRに元から入っているリズムマシンしか音のないデモだが、藤原は「いいじゃん、これ」と言ってくれた。


 僕が作ったオリジナル曲のタイトルは「カラス」という。歌詞はこんな感じだ。



 「カラス」


 僕を殺し僕は生きる


*白い月が照らした帰り道の暗がり


 誰かに欲望吐き捨てても


 寂しくなるんだ 嘘になるんだ


 塗装はげたガードレール


 ゴミ袋をあさった猫が僕を睨んだ


 広い路地で一人で


 冷たい夜風が心を駆ける


*繰り返し



 ソクラテスの悲鳴の曲と通じる、感情をそのまま吐露したような生々しさがサウンドにある曲だ。Aメロとサビの繰り返しの3分に満たない簡素な曲だが、出来栄えに満足していた。曲の主人公は正宗やナナと出会う以前の僕だ。今の自分はまだ自分でもつかめていなくて、曲の主人公にできない。いつか、今の自分の気持ちを表現した曲を作りたいと思っている。


 後日、藤原から「俺もまた曲を作った」とパソコン宛てにメールがあり、音源が添付されていた。かっこいい曲だと思ったが、はて、どこかで聴いたことがある。メールがあった数日後に、この曲はジョイ・ディヴィジョンの「Warsaw」という曲にそっくりだと気付いた。


 スタジオに入った時に、藤原にそのことを話すと「いや、俺自身で考えたんだよ」と言って譲らなかった。藤原はジョイ・ディヴィジョンを好きなことを僕に以前に話していた記憶があるし、おそらくパクリだろうと僕は思っていた。

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