第22話 8月⑧ 取り調べ

 その後、軍の取り調べを受けることになったが、今夜はもう遅いので軍の施設で寝ることになった。音楽街に別れを告げ、軍の基地のある場所へ空間跳躍する。基地で用意されたベッドは地球なら高級品のふかふかのベッドだったが、僕は興奮状態から抜け出せず、なかなか寝付けずにいた。人の死ぬ瞬間を初めて間近で観たショックも僕を襲っていた。その時、個室のドアをノックする音が聞こえた。


「聡吾、起きてる?」ナナの声だ。僕は扉を開ける。


「ごめんなさいね、こんなことになって」言い終えた後、ナナは唇をぎゅっときつく結んだ。


「いや、こちらこそ。命がけで僕を守ってくれてありがとう」心からの感謝の言葉だった。


「これ、不安や興奮状態を逓減するサプリメントよ。地球のものと違って副作用もないから安心なの。一粒飲めばぐっすり眠れるわ。水なしで飲めるから」ナナはそう言って一つの小さなカプセルを僕に手渡した。


「ありがとう。いただいておくね」


 もらったサプリメントを飲んだら、次第に眠くなり、気付いたら次の日の昼過ぎだった。ナナとアルエが取り調べを受けている部屋に僕も遅れて行き、一緒に取り調べを受けた。


「話をまとめますと、今回音楽街を襲ったテロリスト達はアルエさんと魔法陣営の同じ兵団にいた敗走兵で、ナナさんと聡吾さんはたまたまテロの現場に出くわしたということですね」取り調べをしている軍の担当者が言う。


「ええ」ナナが答える。


「私絡みの件で今回このようなテロが起こったことは本当に申し訳ない。残ったテロリスト達は私が責任持ってスカーレット軍に引き渡します」アルエが頼もしい力強い口調で言った。


「若き大魔導師と呼ばれたアルエさんがそう言ってくれるなら心強い。今回、音楽街にテロリスト達の侵入を許した責任は軍と警察にもあります。残ったテロリスト3人の顔を含めた容姿の画像やデータの提供もアルエさんから受けていますし、軍の方でも追ってみますよ」


「ありがとうございます」アルエは頭を下げた。地球の日本だけでなく、この星でも感謝する時には頭を下げるようだ。


「このテロリスト達の使う手口や魔法からすると、悪名高きテロリストグループ【快楽天下】の可能性が高いですね。快楽天下はアルエさんだけでなく、我々平和を大切にする者皆の敵です」取り調べ官の声には熱がこもっていた。


「ところで、今回のテロで何人くらい犠牲になったんですか」アルエが辛そうな面持ちで聞く。


「半径1キロメートルの円を範囲とした強力な爆風で、約3000人の尊い人命が失われています」取り調べ官が感情を排して淡々と答えたのは、感情を込めて言うとアルエに自責の念を抱かせることへの配慮からだろう。


「そんなに!?」僕は思わず声に出してしまった。


「すみません。この借りは必ず返します」アルエが心苦しそうな表情で、しかし念を込めて言う。


「我が星だけでなく、ビバルゲバル星系全体の平和と人権保護の達成を究極の目標とする永世中立惑星スカーレットとしましては、どの陣営にも与しないでビバルゲバル星系を巻き込んだ魔科大戦を終結させようと動くあなたをこれからも全力でサポートしていく所存です。テロリストが悪いのです。あなたは悪くない」取り調べ官はアルエの目をじっと見ながら優しく答えた。

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