第21話 8月⑦ 謎の聖書

「激・雷撃!」


「反射鏡!」


 アルエの放った「激・雷撃」は凄まじい威力でテロリストの作り出した反射鏡を打ち砕き、テロリストにダメージを与える。


 残ったテロリスト3人とアルエの戦いは先ほどから形成が一気に逆転していた。アルエが胸元から一冊の本を取り出して詠唱を始めてから、アルエの放つ魔法の威力が数段とアップしたのだ。


「アルエ、なんなんだその本は!」テロリストの親玉であるブレードが憤怒の顔をして激しく叫ぶ。


「お前らには教えない!」アルエも強く言い返す。


 アルエが手元に持っている本は「聖書」と呼ばれる本で、科学陣営と魔法陣営の和平を望む一人の老人から託されたものだった。この本を詠唱すると、強力な魔法が使えるようになる。アルエはその存在を秘匿しておきたかったが、敵に追い詰められていたため使わざるを得なかったのだ。


「ん…? レーダーにアンソニーとパティの生体反応がないぞ。殺られたのか! おのれ!!」眉をきつく寄せていたブレードの顔が、さらなる怒りでみるみる真っ赤に染まっていく。


「ボス! これ以上は無理です。撤退を進言します」テロリストの一人がブレードに駆けより、早口で言う。


「仕方ない。ずらかるぞ!」ブレードは、怒りの中でも冷静な判断ができる男だった。そうやって今まで生き延びてきたのだ。


 空間跳躍し、テロリスト3人はアルエの視界から消えた。その後、アルエは生存者がいないか探すために走り続けた。その場から10分ほど走ったところで、ナナと聡吾を見つけ、「大丈夫か!? 私は味方だ」と声をかけた。



 ナナは倒れて意識を失っているので、聡吾に向かって言ったのだが、言葉が通じない。この青年は青色のスカーレットクローズを着ているので、他星系からの来賓なのかもしれないとアルエは思った。聡吾に対し、右腕のスカーレットクローズについている翻訳機能ボタンを押すようにジェスチャーし、聡吾はそれに倣った。


 聡吾は驚いた。バンド【ソクラテスの悲鳴】の「ストレンジャーの聖書」のPVに出てくる聖書と同じ聖書を持った男がすぐそばに立っていたのだから。


 アルエはもう一度「大丈夫か?」と聞く。


「僕を守ってくれた女の子が気を失ってしまって……」聡吾は力なく言う。


「かなりのダメージを受けているな。回復魔法を使おう」



 アルエが聖書を持ち、詠唱を始めると、ナナの全身を覆っていた爆風の跡の火傷がみるみる間に治っていく。身体が負った疲労とダメージが回復していき、ナナはようやく目覚めて聡吾に弱弱しくも笑顔を見せるようになった。



「その方は?」ナナがアルエの方を向いて言う。


「私の名はアルエ。魔科大戦を止めるために活動している」アルエが力強くはっきりとした口調で答える。


「あなたがアルエなのね。こんな所で出会うなんて。惑星公務員の間で噂は聞いているわ。惑星スカーレットに極秘で来星し、和平の道を探っているのよね」ナナが尊敬のまなざしをアルエに対して向ける。


「君たち、無事か!?」遠くから声がする。


「やっと軍が来たわ。これで何があっても大丈夫よ」地面に横になっているナナが安心しきった声で言う。

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