第20話 8月⑥ 守らなければ
聡吾は外から見ると何を考えているのか分からない。話している様子を見ても質問ばかりで自分の考えを言わない。だけど、心の中ではたくさんのことを考えている。人の見えないところで努力もしている。辛い病気を抱えながらも前に進もうとしている。深く接すると聡吾はなかなか魅力的な人物で、恋とかではないけれど好きになった。容姿も平々凡々としているし、何か特別な才能があるという訳でもないのだけど。
守らなければと思った。本来なら今ごろ地球で平穏に暮らしているはずの聡吾をなんとしても守らなければ。惑星公務員の幹部としての責任だけではない。聡吾という一人の人間を一人の人間として守らなければと強く思った。
「なかなか広く張られた結界ね。走っても走っても結界の終わりが見えないわ」壊れかけた街灯が光る夜の中、聡吾と共に爆風で崩壊してしまった街を全速力で駆け抜けながら私は言う。
その時だった。前方上空に二人の人影が現れたのは。空間跳躍でやってきたのだろう。目元以外を黒装束で包んだその格好からすると、先ほどの爆風を起こしたテロリストに違いない。私が空間跳躍を使えなくて、彼らが使えるところを見ると、この結界は味方とその他の人間を識別できる高性能の結界のようだ。
「爆風撃!」とテロリストの女性が叫んだその次の瞬間、私と聡吾の辺りに小規模の爆風が巻き起こった。爆風の衝撃波で私と聡吾は散り散りに吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされた後、聡吾は立ち上がってその場から走り、身を隠す場所を探しているようだ。それでよい。これで私も戦いに集中できる。
私と聡吾のスカーレットクローズは今のも含めてこれまでの大小二回の爆風でかなりのダメージを受けている。これ以上ダメージを受けるのはまずい。スカーレットクローズの耐久力を超えてダメージを受けると、待っているのは死だ。
私は胸元から小銃を取り出した。小銃といっても惑星スカーレットの技術を結集した強化銃で、殺傷能力はかなり高い。一発の銃弾で耐久力の高い防御装備も打ち抜くことができる。
「氷撃!」とテロリストの男性が叫ぶと私に向かって無数の氷のつららが飛んでくる。瞬時に私は足についているスカーレットクローズのブーストボタンを押した。ブーストボタンは身体に負荷をかけるが、一瞬だけ音速に近い速さで動くことができる。
ブーストボタンによる加速で敵の攻撃をかわしたのも束の間、今度は「爆風撃!」と疾呼する女性テロリストの放つ爆風が私を襲う。
「くっ……」本当にまずい。スカーレットクローズはもう持たない……!
聡吾は足手まといになることを悟ったのか身を隠しているようだ。テロリスト達の目的はおそらく私のパスコード。聡吾には手を出さず、私を集中して攻撃してくるのはそのためだろう。
氷撃と爆風撃の攻撃魔法のコンビネーションは息が合っている。どうすれば彼らの魔法をくぐりぬけてダメージを与えられるのか。
必死に思考をめぐらしているうちに、突然聡吾が視界に現れた。
「撃って!」聡吾が大声で言う。視界に現れた聡吾にテロリストの男性が気を取られている間隙を縫って小銃の弾を放つ。弾はテロリストの男性の左胸に命中し、テロリストはドサっという音を立てて倒れた。
「よくも! 爆風撃!」女テロリストが聡吾を狙った爆風が収まった後、爆風の中心地には誰もいなかった。私がブーストボタンを押す仕草をどこかで観察し、聡吾もそれを使ったのだ。
そして、爆風撃を放った直後の瞬間の隙を狙って、私は女テロリストを銃撃した。銃弾は女テロリストの頭を撃ち抜いた。
女テロリストが「爆風撃」を聡吾に向かって放つ時、銃撃するか聡吾の守りに入るかで私は迷っていたのだけど、聡吾は私の期待通りにブーストボタンを使ってくれた。これは賭けだった。賭けに勝利し、なんとか二人のテロリストを撃破することができた。
「大丈夫かい?」聡吾が聞いてくる。
「心配いらないわ。それより、さっきのアシスト凄かったよ」
「いや、僕にできることがないか無我夢中だったから」
そう言って聡吾は二人のテロリストの死骸を見やる。
「なあ、あの人たちは死んでしまったのかい? 生き返らせる方法はないのかい?」
「即死よ。惑星スカーレットの技術でも蘇生は無理よ。テロを起こしたのだから自業自得ね」
「そうか……」聡吾は深くため息をついた。
聡吾はこうなのだ。自分達の命を狙ったテロリストの命まで心配してしまう。優しすぎるのが、少しうざったいけれど、それほど嫌という訳でもない。テロリストの前で身体を張った勇気もある。繊細すぎるけれど、大胆な性格。聡吾を守れて良かったと思うと同時に、私は安堵して、身体を襲うダメージと疲れから倒れてしまった。
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