灰色の日々

 今日一日の授業も詮無いことを考えているうちにいつの間にか終わって、ホームルームの時間となっていた。

 でもなぜか考え事をしているときの授業はかなりすぎるのが早く感じる。逆もまた然りで、中途半端に授業を聞いていたり、退屈な授業だと思うほどに5分の針の進みも一日のように感じられる。それは思えば思うほど酷くなるということは中学のときに学んだ。楽しい時間ほど短く感じるあの理論だ。

 授業が終わっても雨雲は晴れることはなかったが、昼過ぎに大雨をふらしていた黒々とした雲集はどこかへ行ったらしい。うっすら太陽が見えなくもないほどには雨は止んでいた。

「明日は保護者会の関係で全校生徒全員が昼食、掃除の後に自宅学習になる。だからといって気を抜くなよ。」

 自宅学習なんて言われて果たして遵守する生徒がどこにいるのかとは思うが、早く家に帰れること自体は喜ぶべきことだ。勿論家庭学習なんてするわけがないのだが。

 ホームルームが終わった後、部活に所属していない僕は今日も今日とて学校に残ってまでやることもなく、雨に降られないうちに帰るしか選択肢がなかった。

 クラスの周囲を見渡すと、まだ大半のクラスメイトたちは何人かで集まっていて何やら騒々しい。明日の午後に遊ぶ予定でも立てているのかもしれない。そう思いながら彼らを眺めていた刹那、そのグループにいた藤岡と不覚にも目が合ってしまった。気づいたときにはもう遅く藤岡はスルリと集まりの輪を抜けるとこちらに寄ってきた。

「よっす、博臣。明日の午後なんだけどさ、あそこらへんにいる面子とカラオケに行かね?」

やはり予想通りだった。どうせその後はゲーセンにでも行って夜飯はラーメン。

もう暇な休日の典型的な潰し方だ。

「カラオケかぁ・・・誘いは嬉しいけど俺の明日の午後の予定はきっちり4時半まで家庭学習になっていてな。」

「あ、そうだった。って、なわけないだろ。おい~、カラオケ行こうぜ~。」

藤岡はいつも僕になにか頼んだりするとき肩を掴んで子供のように体を揺すり抵抗してくる。

「だって、明日も雨だろ。確かにカラオケに行ったりするのは楽しいけど、雨じゃあな。」

「雨だからって大事な時間を無碍にしちまうのも損だろ。まぁ、明日はいいや、次暇な時は必ず付き合えよな。ちょっと話したいこともあるしよ。ゆっくりしすぎるとまた雨に降られちまう。そんじゃな。」

そう言ってさっきの集団に再び舞い戻っていったかと思うと、風のように教室を出ていき、帰ってしまった。

「なんだよ、話したいことって。焦らされるのが嫌いなことわかっててやりやがったな。」


その後、完全にすることがなくなり、自分以外は何かしらしたり誰かと話したりしていて、僕だけがまるで別空間にいるような雰囲気がして息が詰まりそうだった。物理的にも精神的にも新鮮な空気が吸いたくなって、足早に教室を後にした。

 クラスのみんなとは決して仲が悪いわけではない、むしろ彼らは積極的に話しかけてくれもするし、たまにさっきの誘いのように大人数で遊んだりもする。でも、なぜか時々彼らとのギャップを感じてしまう瞬間がある。

それはまるで水族館のあの厚みを感じさせないガラスの壁のように。


こんなに人付き合いに悶々としてかんがえてしまういるのは、きっと今にも再び降り出しそうなあの曇天のせいだ、なんて思ってみる。





   

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