凪の日々から
らくがき烏
ナニイロノジブン
幸福って何だろうか。
この反射的に答えが出てきそうで出てこない、抽象的で判然としない問。
人は他の人の生活や気持ちなどを「君の人生バラ色だねぇ。」とか「ブルーな気分」だとか感情を色に例えて表現するけれど、幸福の、幸せの色って何色だろうか。
梅雨に入って間もなく、曇り空の毎日が続き、昨日の終いには今年史上最高の降水量なんて更新してしまうのだから、僕の気分も鬱屈としていた。別に雨が嫌いなわけではないんだ。
「なぁ、今日って雨降るのか?」
中学からの腐れ縁の藤岡だ。隣の机に腰をかけ、物案じた顔で空を見ている。
もちろん昨日に引き続き今日もきっと雨は降る。
「降るかどうかじゃなくて降ってほしくないんだろ。」
「まぁ、そう思っていなくもない。」
「この時期に傘持ってこないなんてな。」
窓越しから見える雲は黒々とした質量感を持って今すぐにも雨が降ることを知らせていた。
「夏は好きなんだけどなぁ。どうにもこの夏目前にここぞとばかり雨を降らせる梅雨が許せん。」
藤岡は顰め面で空を眺めていた。そんなに眺めていても雲行きが変わることなんてないのに。
「許せないのは、今日傘忘れたからだろ。」
「身も蓋もないことを言うなや。」
「ほら降り出したぞ。座れ座れ。」
どうやら今日も雨に打たれて帰らなければならないことが決まったらしい。
「五月雨に 物思ひをれば時鳥 夜深く鳴きていづちゆくらむ
え~、これは平安時代の三十六歌仙の一人である紀友則の歌で・・・」
基本的に僕は勉強が得意でもなければ好きでもないのだが、国語の時間だけ、特に古典は興味があった。
数百年も前に生きてた人が今の僕たちと同じ感覚やちょっと違った感覚にまるで自分が追体験をするように触れられるのが楽しいのだ。
かといって成績がいいという訳でもないのだが。
「(確かにこう雨ばっかり降ってると何かと思い巡らせるって言うのもわかるかもな。)」
高校生になってからというものなるようになると思い、生活しているとそれなりには恙なく過ごせてはいたが、特筆すべきこともなく短距離走かの如く一年が過ぎてしまっていた。あっという間に高校生活なんて過ぎ去ってしまうと遠方に住む叔母さんに入学したときに電話越しで言われたときのことを思い出す。
もう3分の1が終わってしまい、あと2年弱のこの日々も流れるように終わってしまうのだろうか。
「(まあ、これも一つの選択なのかな。)」
なぜだろうどこか後悔と淋しさに駆られている自分がいた。
きっと雨のせいなんだろう。
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