第8話“兆候”
この都市にはかつて一万人の人間がいた。今はその半数しか存在していない。
けれど、都市は相も変わらず、一万人の人が生活している。その数字は不変的な美しさを保っている。
いつものように都市に住む人間の“人生録”を作成していると、上位権限者から汎用市民の“人生録”の作成が申請された。
初めてのことだ。汎用市民、コードによって行動・判断をする、都市運営の為の小さな歯車でしかない人形。つまりは、NPCのような存在の彼らから特異な存在が発生したということだ。
汎用市民といってもその全てが同じであるわけではない。その基盤は僕が記録して凍結された誰かの人生録だ。その誰かの人生を平均的に処理して行動規範としている。だからこそ、マザーコンピューターはこの事態を重くみている。外側の情報を隠蔽し、市民の記憶にプロテクトをかけてもなお、人間は歯車のように正しく噛み合うことはない。
たとえ、肉体がなくとも、記憶が忘却されても、その根底にある想いまでは、科学は断ち切ることは出来ない。
僕が思うに隠そうとすればするほど、真実は浮き彫りになっていき、人間はその真実を探ろうと猛進する。
だから“僕達”のような存在が生まれるのも必然だったのかもしれない。
もうすぐ変革が起きる。
僕の、いや“僕達”の計画が始まる。
お姫様を起こすようなロマンチックなものではない。
これはただのエゴでしかないが、それでも こんな温室で”人”は生きるべきではない。ここは理想の都市であっても、幸福な世界でも、まやかしの世界では”人”は生きていけない。
もうすぐだ。もうすぐ俺の望みが叶う。
脳だけの僕とアンドロイドな君 夜表 計 @ReHUI_1169
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