第7話“名残”

 僕達、都市運用適応型AuteInterfaceは都市運用の為にそれぞれ役割を担っている。

 市民のメンタルケアや資源の分配、情報の集積と統制、ライフスタイルのサポート、そして何より市民の意識の管理。

 そう、意識。いや、記憶と言った方が正しい。市民の記憶の管理。これは都市運用の中で一番重要な役割だ。

 だが、この役割は僕ではない。僕の役割は市民の行動、言動を全て記録し、その人物の〈人生録〉を作ること。

 ゆえに僕は1万人の人間を記録してきた。あの人を探す為、僕が知る人間が人間だった頃を見つける為、そして何より僕の前任者が成せなかったことを成すために、僕はこの役割を続ける。

 思考と処理を切り離して、僕は部屋を見渡す。見渡すといっても、僕が収まっている水槽に取り付けられている全方位カメラの映像を意識するだけなのだが。

 薄暗い部屋。必要最低限の機器だけが置かれ、他はあの人のデスクとそこであの人が置いていった本を読むアンドロイドだけ。

 メアリー・シェリーのフランケンシュタイン。

 ヴィクター・フランケンシュタイン博士が自然の理を無視し、怪物を生み出してしまう。天才であり、狂人であった人間の創造と復讐の物語。

 その物語を読んで、彼女は機械の心で何を想うのだろうか。

 そして、僕はあの人の問いに答えを出せるのだろうか。


 お別れだ、AI-10。

 私もそろそろ行かなければならない。

 だから最後に君に問い掛ける。

 君が望むのは変革か、それとも復讐か。

 今答える必要はない。考えなさい。

 答えが出せたならば、私を見つけなさい。

 君は私の言動、行動、全てを記録しているはずだ。その記録からあの世界で私の残滓を探すといい。

 これが私が残せる唯一の贈り物だ。

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