第6話“嘘の現実”

 私達には“本当”は認識できないんだよ。私達が認識しているのは“歪んだ現実”だけ。それでも、人は今見えているモノを、聞こえる音を“本当”だと信じて疑わない。

 それがどんなに幸せなことなのかを皆知っているから。


 これは誰かの言葉。

 身体を通って脳へ送られる情報にはフィルターが、情報の制限がかかっている。

 たしかにそこには“真実”はない。だが、人間はそもそも現実を正しく認識出来ないのだから、世界が“嘘”であろうが、“本当”であろうがそこに意味などありはしない。

 今、こうして“僕達”が膨大な量のテクスチャを都市に貼り付けていることを知っているのは、もう人間の中には存在しない。

 この23年間、都市の中ではもうすぐ100年になるが、あまりにも世界は、都市は何も変わっていない。

 人は何も変わらず、何も成すことなく、静かに夢を見る。

 そして誰も知ることは無い。どこにも辿り着く場所など無いことを、


 誰もが誰かにとっての特別でありたいと願ってる。そうして人は成長してきたんだよ。

 でも、今は違う。今の時代、満たされていない人は極僅か。皆満たされてるから犯罪にはしる必要もないし、自殺する意味もない。

 ここは天国に一番近い場所。そして最も息苦しい場所。

 だから、みんなに知らせよう。ここは人間が生きる場所じゃないって。

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