第2話

私には小学校入学当初から二、三人の子が家に来て一緒に遊んだりしていました。

そのうちの一人・リュート(仮名・♂)はとても運動神経の良い子でした。

運動会ではたちまちエース、クラスでも飛び抜けて人気者でした。

何故そんな子が私なんぞのところに遊びに来ていたのか、今となっては不思議です。

ですが、私はその子にとって『ソフビ人形』とそれほど変わりのない存在だったのです。


『俺、今日は〇〇と帰るから~』

『ごめん、俺今日□□と遊ぶ約束してんの』

『△△ん家行くから、遊べねぇわ』


ある時期を境に、彼とは徐々に疎遠になっていきました。

ちょうど、私が友達作りを諦めたのと同じくらいだったと記憶しています。

同時期に、対私の【第一次総いじり】が始まりました。

『おい魔神、今日はお菓子食べないのか?』

『加齢臭する、笹は不潔だ』

『笹はキモイ、近づいたら感染うつるぞ』


【いじり】とは何なのか、子供の純粋な口から突いて出る無遠慮な言葉の集中砲火は、もはやイジメのそれに近いものがありました。

私もさすがに耐えきれず、しかし親に本当の事など言えませんでした。


言って心配をかけたくない、などとは思いませんでした。


親は言ってどうにかできる人じゃない。

言ったところで信じちゃもらえない。

なら、言わなくたって変わらない。


なんて、冷めた考えをしていました。

あるいは、もうそういった点で早熟だったのかも知れません。

だから両親は、この事を今まで知りません。

そしてこれからも、知る事はありません。

私から言うつもりはないのですから。




私はそんな根も葉もない根拠から、小学校で【孤独】と【不信】を学びました。

なんて冷めたガキだ、と自分でも思ってしまいます。

でも、今自分が同じ状況になったとしたら、きっと今の私も『孤独でいる事』を選ぶかも知れません。

もしかしたらその方が、自分の気持ちが幾分か楽かも知れないからです。


私はその一件以来、余計に勉強にのめり込みました。


漢字の書き順や四則計算なんかは、その頃にみっちり鍛えました。

この頃の経験からか、高校に入ってから漢検準2級まで取得出来ました。

そのうち2級の試験も受ける予定でいます。


さて、次話からは小学校中学年に舞台が変わります。

その前に一つ、読者の中で疑問があったのではないでしょうか。


『笹くんの父親は何処にいるんだろう?』


……この頃父親は出張三昧で、家には中々帰ってきませんでした。

この頃の父親の記憶も、正直なところ無いのです。

ですが父親と母親がよく喧嘩していた事はよく覚えています。


父親は多額の借金の保証人になっていた、と後から聞きました。

借金した友人が蒸発した為に、その借金は父親の元へ。

せっかく全額返済したばかりの時に、浮気やギャンブルにまで手をつけていた為に、母親の怒りは天井を突き破っていたのでした。


幼少期の陰鬱な家庭の空気は、そんなところからもきていたのかも知れません。

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