第7話
水神 Side
『起きて、起きて――!ねぇ!』
女性の物だと思われる声に揺り起こされた私は重い瞼を瞬かせて覚醒した。霞んだ視界が段々とクリアになっていくのを見て――目の前に竜がいることに気が付いた。
(――あら、私以外に竜がいるなんて、珍しいこと)
しかしまあ情けない顔をしているものかと思うと、ふと気が付く。目の前で半泣きになっているソレは私だった体であると。
体が妙に重い。自分のてのひらを見た。白っぽい五本の短く小さな指、くるぶしまである長くぶかぶかのワンピース。
湖を覗くと白金の髪が肩からするりと落ちる。鏡のように映る人の緑色の瞳は私を見返していた。
「間違いなく、私とあなたが入れ替わった、と考えていいと思うわ……ユシェラ」
『えぇっ!?』
ユシェラは――竜の体だけれど――顔を顰めた。
『――ごめん、わたし……』
悲痛な面持ちで俯いたユシェラの鼻面の上の方をぶん殴った。
『!?』
ふひぃ、と喉の奥から細く発せられた声は何ともまあ、情けない。
「起きたことにうじうじ悩んでいるんじゃないわ。祝福をうけた子が何もないわけがないって知っておきながら油断した私が迂闊だったのよ。貴女だってそれだけの威力を持つ歌だと思わなかったのでしょう?」
ユシェラは首を竦めて涙目で私をみた。
「私の顔で情けない顔してんじゃないわよ」
少女にあるまじきドスの効いた声が出た。
きっと私は疲れていたんだと思う。自分でも動揺していたのよ。多分。
取り敢えず私とユシェラが入れ替わったという事実に変わりはない。“あの歌”はおいそれと歌って良いものではない。次に歌った時に何が起こるかわからない。精霊の力が充満するこの場所なら尚更。
「いいわね? これからは歌ってはいけないわ。貴女の歌は――そう、とても力の強いものだから。何が起こるかわからないの」
いいわね、と念押しするとユシェラはコクリと頷いた。鏡を見ているようで、しかしそうではない。自分でいて自分ではない存在に、まさか子育てをすることになるなんて。人生何がおこるか分かったモノじゃないわね。竜だけど。
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