第6話


❄❄❄


「一体今のって……」

『初めて見たわ。……精霊に愛された子、貴女は相当愛されているようね』


 竜はクスクスと珍しい玩具を見つけた子供のように笑った。そして魔法で私の衣服の水を落とした。初めて見る魔法だ。知識として精霊術師なるものがいることはしっていたが、精霊そのものが使う魔法については全く知らないのだ。


「ありがとう」


 けれど今度は私が首を傾げる番だった。


「“祝福グロゥ”? 私が? 見えないのに?」


 祝福とは精霊に愛され、無条件で力をもらえる存在である。ユシェラは自分が精霊にどうこうしてもらえるような存在ではないと思っている。

 もしそうなら、ここにいるはずがなかったから。


『見えようも、見えなかろうと、愛されていることに変わりはないわ……そうね、私の目と、耳を貸してあげるわ』


 そう言った竜は私と目を合わせた。次いで、引き込まれるような、視界が歪むような感覚に襲われた。


――そして


「……わ、あ……」


 きらきらと輝いていた。目に映るものすべてが。物の輪郭ははっきりとしていて、何より大小様々な光の球があちこちにふわふわと浮いていたのである。


「すごい……これ……」

『精霊よ。まだまだ幼いけれど、ね』


――思わず、といったところだろうか。

 癖だったのだ。ユシェラがその歌をくちずさんだのは。


――揺蕩える船は舵を絶え 絶望の引力に逆らえぬまま

私は飛び続ける

浮かび、飛び、そしていずれ堕ちるのならば――


 ユシェラはそこで言葉を切った。自分がここへ来る前のことを思い出してしまったから。

 そんなユシェラを気遣うように一匹の竜は顔を覗き込もうとするように近づいた。


『ユシェラ――? きゃぁ!』


 目の前が光に包まれた。そして暗かった。正反対のことを言っているようで、単に気絶しただけともいう。

 ユシェラはなけなしの意識の中で、僅かな間ながら言葉を交わした美しい竜のことをおもった。最後に聞いたのは悲鳴だったから、心配で。

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